税理士を廃業して2回目の確定申告の時期となった。昨年は前年10月に申請した「マイナンバーカード」の発行が間に合わず、久しぶりに紙で申告書を提出したので、廃業以来、初めての電子申告である。
従来は、市販の税理士向け電子申告ソフトと税理士会の証明書を使っていたが、今は、それらが使えない。コンビニやスーパーにも「申告はe-TAXで。便利、簡単」という趣旨のチラシが貼ってあるが、実態はどうなのだろう。
今、自身の申告書を作成し提出するだけとなったので、一つ一つ確認しながら、やってみようと思います。電子申告できるかな?
(1)電子申告開始届と利用者識別番号
電子申告では、個人識別のため申告者固有の「利用者識別番号」が決まる。電子申告開始届けを提出すると利用者識別番号が通知される。
マイナンバーカードを利用して申告する場合は、開始届が省略され、利用者識別番号が、決まるので、特に利用者識別番号を意識する必要はない。
その他にも税務署に申請して、IDパスワードを発行してもらう方法がある。
しかし、いずれの場合も利用者識別番号は、付番され、わからないと、後日困ることになるので、必ず確認しておいたほうがよい。
利用者識別番号は、住所変更があっても、変わらない。
開始当初の開始届
国税の電子申告が始まったのが、平成16年(2004年)で、私が電子申告開始届けを提出したのも開始と同時であり、届出は書面のみであった。
当時は、開始届には、住民票、免許証などの本人確認書類の添付(呈示)が必要で、控えをみると私は健康保険証のコピーを提出している。開始届を提出すると、利用者識別番号とルート証明書が格納されたCD-ROMが郵送で送られてきた。
現在の開始届
現在(2024年)は、ネットで申請すると、直ちに利用者識別番号が決まって、通知される。
マイナンバーカードを使用して、申告する場合は、開始届は省略される。
法令の確認
電子申告の根拠法令は「情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律」(制定時は「利用に関する」法律 以下「デジタル手続法」と略)である。
同法による「見なし規定」(現6条、旧法3条)により、ネットで送信した申告データは、書面の「確定申告書」とみなされることになった。同法により、データ形式や送信方法など電子申告に関することは、財務省令に委任された。
デジタル手続法で、署名等とみなされる方法は、電子署名であったものが、マイナンバー法電子署名と行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律)施行によって、マイナンバーカードを使用する方法が、追加された。
コメント
なぜ「政令委任」でなく「省令委任」か?
電子申告は税法の改正ではなく、「情報通信技術利用法」の見なし規定によって始まった。そしてその実質要件は、財務省令によって定めることとされた。こと細かな技術要件を法律に規定することは無理があるとしても、政令を飛ばして、すべて省令委任としたことは、疑問である。
税務手続は、多方面に影響するので、本来は各府省共通部分については、共通システムであるべきではないだろうか。省令委任とすることによって、各省庁の独自システムを構築することが許容されることになった。
電子申告を強要すべきでない
法の立て付けとしては、あくまで電子申告は「見なし規定」である。しかし、税制優遇によるインセンティヴ供与や、対面での相談会場の激減など、電子申告の半強制化がすすんでいる。
電子申告開始当時は、電子証明書の登録で、本来不要のはずの本人確認書類の添付が求められたのだが、いつ頃からか、風向きが変わってきた。
納税義務の履行にあたって、国民の負担が軽微であることが望ましいことは言うまでもない。電子申告もその一つである。
スマホの普及は急速にすすんだが、いわゆりデジタルデバイド問題は、解決したようには思えない。
パソコンやスマホが不得手、嫌いという人も存在するのであり、申告義務がある者への十分な配慮が必要である。
マイナンバーカードについて
マイナンバーカードによって、手続が簡単になったわけではない。
従来の住民基本台帳カードや民間認証局発行の証明書を利用した電子署名のほうが、わかりやすい。
(2)出発点として、まず素朴な疑問から
電子データであること
電子申告では、コンピュータ同士が情報の送受信を行う。この情報は、人の知覚によって認識することができない。デジタル手続法、民事訴訟法や電子帳簿保存法は、コンピュータで作成されたデータを「電磁的記録」とよび、次のように定義している。
「電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。」
「紙」との決定的な違いは、そのままでは、人が見ることができないことである。
自分と相手は同じに見えているのか
電子申告のデータは、コンピュータという装置と、ソフトウエアがないと人はみることができない。これが紙との決定的な違いである。
メールの「文字化け」は、ほとんどの人が経験していると思われる。私が送信した電子申告のデータは、受信側の税務署の人にも、同じに見えているのだろうか。
見えているとすれば、それは何によって保障されているのだろうか。
書き換えが可能ではないか
電子データには、書き換えが自由にできるという書面にはない特性がある。
書き換えができない、または、書き換えが行われたことを検知する仕組みはあるのだろうか。
インターネットの「危険」は
電子申告は、インターネットを使って、国税庁のサーバーにデータを送信する。
あまり、意識しない人が多いが、インターネットは、「のぞき見が自由」だという人がいる。のぞき見というのは、正確ではなく、メールヘッダーをみれば、わかるように、インターネットは、サーバーを渡り歩いて相手に到達する仕組みである。
そこには「のぞき見」や「改ざん」の危険性がある。この点での安全性は保たれているのだろうか。
フィッシング詐欺が横行している。フィッシングとは、偽サイトに誘導する詐欺であるが、私が、送信した相手は、本当に税務署(国税庁)のサイトなのでろうか。
これらのことを検証しながら、電子申告をやってみようと思います。
番外編 コンピュータとデジタル
電子申告はコンピュータでデータを作成して、インターネットで、データを送受信します。なぜコンピュータを使うのかといえば、早くて、正確など、様々なメリットがあるからです。しかし、コンピュータは、0と1(onとoff)というデジタル情報しか扱うことはできません。
bitビットとByteバイト
情報の基礎単位はbitです。1bitの情報量は、一桁で0か1です。隠されたコインの表か裏かが、わかる情報量です。8bit=1Biteです。8bitでは256(2の8乗)とおりの情報を区別することができます。これでは、日本語の文字数にたりないので、日本語をあつかうには、2Bite必要です。これで65536(256×256)種の表現が可能になります。
みんなが共有する約束事が必要
面倒なので、2桁で考えてみます。
00,01,10,11
2桁あると4とおりの表現が可能です。3桁あると8とおりです。
ここで、00という信号にAという文字をあてるかBという文字をあてるかには約束事が必要です。
「電磁的記録」は、目に見えませんから、当然それをみるためのコンピュータが必要です。
ここでは、番外として、コンピュータとう装置と、お互いの約束事があって、初めて役立つのが「電磁的記録」だというあたりまえのことを確認したかっただけです。
(3)電子申告の方法あれこれ
電子申告の根拠法令は「情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律」(制定時は「利用に関する」法律 以下「デジタル手続法」と略)である。同法では、その具体的要件は「主務省令で定める」としているが、この該当省令を探せない。なぜ、こんなに分かりにくいのだろうか。
やむを得ず、国税庁サイトに従って、電子申告(個人確定申告に限る)の方法を分類すると次のようになる。
国税庁サイトによる電子申告の方法の分類
国税庁サイトで「確定申告書等の作成」を選ぶと、次のように分類されている。
(1)マイナンバーカード利用
-スマートフォン使用
-ICカードリーダライター使用
(2)ID,パスワード方式
それぞれについて簡単にみておく。
(1)マイナンバーカード利用は、スマーフォン使用と、ICカードリーダライター使用に分かれる。両者に基本的な違いはなく、スマホが、ICカードリーダライターの代わりをするだけと理解した方がよい。
(2)ID,パスワード方式
スマホで、e-Tax確定申告書コーナーから、確定申告を行う方式で、電子署名が不要というのが、特徴である。ただし、事前に「ID・パスワード方式の届出完了通知」の交付を受けることが、必要である。届出完了通知の交付を受けるには、マイナンバーカードを使って、オンラインで行うこともできるが、マイナンバーカードを持っていない場合は、「税務署で職員による本人確認を行った後に「 ID・パスワード方式の届出完了通知 」を発行しますので、ご希望される方は運転免許証などの本人確認書類をお持ちの上、お近くの税務署にお越しください。」とのことである。
原則的(一般的)な方法
上記はe-Tax確定申告書コーナーからの申告方法であるが、原則的な方法は次のとおり。
1,利用者識別番号の取得
2,電子証明書の取得
3,申告データの作成
4,電子証明書の登録
5,申告データに電位署名付与
6,申告データの送信
7,送信結果の確認
電子申告で送信するデータは、XML形式のデータであり、e-Taxの確定申告書作成コーナーや、ダウンロード版のe-Taxソフトで作成するか、市販の確定申告ソフトで作成する。
コメント
「スマホで簡単手軽に」は、事実上、給与所得者や年金のみの人の医療費控除など、簡易な申告の場合に限られると思われる。事業所得など、手の込んだ申告は、市販のソフトを使うか、税理士に委任せざるをえないと思われる。
マイナンバーカードを使って、本人確認と、電子署名を行う場合は、マイナポータル連携アプリが、必要であり、従来の住民基本台帳カードと比べると、簡単になったとは、言いがたい。
IDパスワード方式は、事実上「確定申告会場」向けの措置だと思われる。
(4)申告者の電子署名
邪魔者?扱いの電子署名
電子申告データを送信する前に、電子署名をすることが求められる。電子署名は電子申告普及の「ネック」と考えられてきたようで、徐々に「不要」の方向に緩和されてきた。税理士が関与する場合は、本人の電子署名は不要であり、IDパスワード方式では、本人の電子署名も不要である。
電子申告は、多くの人を電子署名から遠ざけることによって、普及してきたとも言える。
電子署名の役割
私たちが日常的に作成するワープロ文書やメールなどは、書き換えが簡単にできる。そのことがメリットである。法令用語に従えば、これら「電磁的記録」は、相手方に渡った後も、その特性が変わらないので、書き換えが可能であり、その痕跡が残らない。
電磁的記録に電子署名を付すと、署名後に、訂正、削除などの改変があったか、なかったかを検出することができる。しかし、どこが、どのように変更されたかは、わからない。
国税庁のサイトでも電子署名の必要性については、下記のように説明されている。
「インターネットは、いつでも、どこでも世界中のコンピュータにアクセスすることができる大変便利なネットワークですが、オープンな通信網であるため、なりすましや改ざん等のリスクが伴います。
一方、申告等は、納税者の方の権利・義務に大きな影響を与える手続であるとともに、その内容は納税者の方のプライバシーそのものであることから、セキュリティの確保が極めて重要となります。 したがって、申告等データを送信する際には、そのデータについて、利用者の方本人が作成し、改ざんされていないことが確認でき、更に自署・押印に代わるものとして、電子署名を行っていただいております。」
<参考>
電子署名に必要なモノ
現在の電子署名は、暗号技術を用いており、電子署名をするためには、装置(コンピュータ)、電子証明書、署名用ソフトウエアが必要である。
電子証明書はもちろん「紙」ではなく、一定形式の電子データである。
※電子署名には、公開鍵暗号と呼ばれる技術が使われている。公開鍵暗号は、対になる署名、暗号化用の「秘密鍵」と暗号の復号、署名検証に使われる「公開鍵」が使われる。厳密には、署名に必要なのは電子証明書でなく「秘密鍵」である。「鍵」といっても実体はなく、電子データである。電子証明書は、厳密に言えば「公開鍵」の証明書である。
署名の検証に必要なモノ
署名は検証できなければ意味がない。署名の検証とは、署名した「電磁的記録」に変更(改ざん)が、あれば、それを検出することである。
署名検証に必要なモノは、装置(コンピュータ)と、相手方(署名者)の電子証明書(公開鍵証明書)、検証ができるソフトウエアである。
申告者は、自己の「秘密鍵」で暗号化する。受信者(国税側)は、あらかじめ登録された申告者の「公開鍵」で、復号する(暗号を元に戻す)ことが、できれば改ざんがなかったことが検証できる。
認証局の役割
電子署名に必要な「鍵」や「電子証明書」は、オープンソフトウエア等で、誰でも作れる。その「公開鍵」が、誰のものであるかを証明するのが認証局の役割である。
公的なものとしては「公的個人認証サービス」「商業登記認証局」がある。その他にも電子申告に使える民間の認証局発行の電子証明書がある。これによって、本人確認ができる。
その他に失効した証明書のリスト(CRLという)を公開するのも認証局の大切な役割である。
デジタル基盤としての電子署名
「電子的記録」(パソコンで作成したデータ、ファイル)が、書面と同様の役割を果たすには、電子署名は、必須のデジタル社会の基盤技術である。
コメント
冒頭に書いたように、電子署名は電子申告普及の足かせと考える人がいたようだ。電子署名は、デジタル化の基盤であり、多くの人を電子署名から遠ざけることは、好ましいこととは思えない。
ICカードをリーダーライターに差し込み、PINコードを打ち込めば署名は完了する。電子署名のやり方と同時に、電子署名の意義も説明すべきだと思うが、そちらは重視していないように思える。
(5)ルート証明書
電子申告は、インターネットを使って、データを送信する。また受信通知など、税務署側からの通知もインターネットが使われる。
インターネットは、多数のサーバーを経由して、データが行き来する仕組みであり、1対1の通信ではない。通信経路で秘匿性は確保されず、改ざんの危険性もある。そのために必要なのが「ルート証明書」である。以下、国税庁サイトの説明をそのまま転記しておく。
「ルート証明書とは、証明書の発行元(認証局)の正当性を証明する証明書のことです。e-Taxでは以下の認証局を信頼の基点としています。
政府共用認証局(官職認証局)
セコムパスポートfor WebSR3.0
利用者はe-Taxソフト等を利用するに当たり、上記の認証局を信頼の基点とすることに同意した上で、各認証局のルート証明書をパソコンにインストールする必要があります。
インストールしたルート証明書は、配付されたプログラム、受付システムから送信されたデータ、電子納税証明書、接続先のサーバが、本当に国税庁のものであるかを確認するために使用されます。」
<参考>
コメント
上記説明にあるように、ルート証明書をインストールしなければ電子申告ができない。わずらわしいと思えても、これがないとオープンなネットワークであるインターネットでの安全性は保てないので、必須の作業である。
ルート認証局が自分自身に対して発行した証明書のことをルート証明書という。これをインストールするということは、その認証局を信頼したことを意味する。
わかりにくいのだが、上記政府共用認証局(官職認証局)、セコムパスポートfor WebSR3.0が、信頼できないということでなく、インストールした証明書がホンモノですか?という意味である。
証明書のインストール自体は、簡単にできてしまうが、「オープンなネットワークであるインターネット」で取得した証明書をそのまま信頼の起点としてよいのだろうか。
この点については、いずれ触れたいと思う。
(6)なんとか終わった 申告完了
思ったとおりというか思った以上に大変。ともかく送信完了。
税理士向けの確定申告ソフトがない、電子証明書は、初めて公的個人認証サービス(マイナンバーカードに格納)を使う、パソコンが変わって、ルート証明書がないなど、忘れていたこともあり、初めてづくしでした。
利用者識別番号
納税地は変わりましたが、登録済みなので、そのまま使えます。
電子証明書の変更
日税連認証局の証明書が失効しているので、公的個人認証サービス(マイナンバーカードに格納:以下JPKIと略)の証明書を使うことにしました。
これが一苦労で、まずJPKIのポータルサイトから、利用者クライアントソフトをダウンロードしてインストールする必要がある。
「JPKI利用者ソフト(利用者クライアントソフト)は、公的個人認証サービスを利用した電子申請を行うときに、マイナンバーカードに搭載された電子証明書を使用して署名を付与するための専用ソフトウェアです。」とある。
このサイトは、大丈夫かと思いながら、一応証明書を確認してみて、ダウンロードし、インストール。なお証明書の発行者は「DigiCert Inc」で、主体者は「地方公共団体情報システム機構」となっていた。
これで電子証明書の差し替えができるようなったので、e-Taxマイページにログインして、変更し準備は完了した。なおログインは、マイナンバーカードを使う方法と、利用者識別番号とパスワードを使う方法がある。どうで取得したマイナンバーカードなので、マイナンバーカードでログインしようと思ったら、結局ダメ(これはまた書きます)で、従来通り利用者識別番号とパスワードでログイン。証明書の変更は簡単。
申告データ作成
送信するデータはXMLでなければならない。所得税ソフトもないので、ダウンロード版e-Taxソフトを使うことにして、作成にとりかかったが、これが手書き感覚で、年金控除、所得控除一切を手入力しなければならない。もはや自信がないので、いったんこのソフトでの作成をあきらめ、e-Taxの申告書作成コーナーで、「印刷して提出」を選び作成。これは控除額なども計算してくれるので、よくできていると思う。
この「印刷して作成」のデータが、どういうものか不明であるが、XMLでないことは確かで、e-Taxソフトには、読み込めない。やむなく、これをプリントして、そのままダウンロード版e-Taxソフトに入力した。これでようやくデータ完成。
署名と送信
使い慣れているということもあるが、この作業はダウンロード版e-Taxソフトが、圧倒的に使いやすい。
電子署名は、公的個人認証を使い、署名し、利用者識別番号とパスワード方式で送信した。
送信結果確認
これもダウンロード版e-Taxソフトが、便利である。
ここでも、マイナンバーカード方式か、利用者識別番号とパスワード方式が選択できる。メッセージボックスの詳細をみるためには、電子証明書が必要なので、マイナンバーカードを使う。
コメント
手順の理解
電子申告の手順は、つぎのとおり。この流れが、わからないと、個々の解説を読んでも、迷うことがでてくる。
1,利用者識別番号の取得
2,電子証明書の取得
3,申告データの作成
4,電子証明書の登録
5,申告データに電子署名付与
6,申告データの送信
7,送信結果の確認
事業所得など
簡単な還付申告以外は、たいていの市販青色申告ソフトは、電子申告用データが作成できるので、これを使って、ダウンロード版e-Taxソフトで、署名送信したほうがよい。
マイナンバーカード
使えるブラウザが限定されること、さらに拡張機能のインストールが要求される。以前の「個人番号カード」のほうが、使いやすいのではないだろうか。
ともかく、疑問点は残しながら、申告は終わった。感想は、と聞かれれば「難しい」が、税務署に持参するか、郵送よりは、「楽」であった。疑問点は、個別に書いていきたい。