「宥恕期間」ってヘンですよね―電子保存をめぐって

この記事は約3分で読めます。

電子保存義務化につて、web検索をすると、「令和5年12月31日で宥恕期間が終了」といった記事がヒットします。しかし法令のどこをみても「宥恕期間」とは書いてありません。

「宥恕」は「ゆうじょ」と読み大辞泉によれば「寛大な心で罪をゆるすこと」とあります。言葉どおりなら「宥恕期間」は、「寛大な心でお許し」をいただいている期間となります。

税法の「宥恕規定」とは

税法には「税務署長は、確定申告書の提出がなかつた場合又は前項の記載がない確定申告書の提出があつた場合においても、その提出がなかつたこと又はその記載がなかつたことについてやむを得ない事情があると認めるときは、第一項の規定を適用することができる。(所得税法第43条)」といった規定が沢山あります。これらの規定を称して、税金実務の世界では「宥恕規定」と呼んでいます。しかし「宥恕期間」は初めて目にするように思います。

「宥恕期間」とは、このこと?

ことの発端は、令和3年度の電子帳簿保存法改正にあります。この改正で財務省令の定める方式で電子取引データの電子保存することが義務づけられました。この財務省令では、経過措置として、令和5年12月31日までは「やむを得ない事情」、かつ「出力書面の提示、提出に応じることができる」ことを要件として、書面での保存を認めました。(令和三年三月三一日財務省令第二五号附則)

どうもWEB記事でみかける「宥恕期間」は、これを指しているようです。

「宥恕」ではなく「権利」

令和5年12月31日までの期間は、財務省令で定めた「経過措置」であって、法令によって規定された、法律上の権利です。これは、従来定着してきた「宥恕規定」と全く異なります。

そもそも「宥恕規定」ではなく「裁量権規定」

税法に多数存在する「裁量税務署長は・・・することができる」という規定は、税務署長の裁量権を定めた規定で、「宥恕」は、法文で使われることはないし、租税法学者も、おそらく使わない、実務界特有の用語だと思います。

税務手続は、複雑であり、軽微な記載漏れや添付不足は、救済されるべきですから、この種の規定は不可欠です。しかし、これは日本語本来の意味における「宥恕」ではなく、行政裁量権を定めたものです。もっとも、行政裁量といっても、フリーハンドではありません。行政先例や、平等取扱い原則に拘束されることは当然です。

「宥恕期間」と書くWEB記事への小さなこだわり

おそらく、「宥恕期間」は、電子保存制度の解説に、実務家が使い始めたのが、始まりなのでしょう。

「宥恕」は、国語辞典的には(つまり普通の日本語)では「寛大な心」「罪を許す」といった、「上から目線」の意味合いですから、国民主権、法律による行政(法治主義)の原理にふさわしい用語とは思えません。ましてや、「宥恕期間」という用語は、実務界に定着している「宥恕規定」とも異なります。

電子帳簿保存法関係の記事を検索すると、やたらコピペらしき記事をみかけます。コピペするにも、一度「宥恕」の意味を調べてほしいものです。私の小さなこだわりです。