「収受印」がなくなる

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国税庁は令和7年1月から、申告書控えなどに、収受日付印(以下、単に「収受印」と記す)を押捺しないこととした、と発表した。

国税に関する手続や業務の在り方の抜本的な見直し(税務行政のデジタル・トランスフォーメーション(DX))を進めていること、e-Tax利用率は向上しており、今後もe-Taxの利用拡大が更に見込まれることを理由としている。

収受印の役割 収受印とは

税務署に申告書や届出書を提出するときに、提出用と控えを作成し持参すると、控えに収受した「税務署名」、「収受した年月日」の収受印(スタンプ)を押してもらえる。

申告義務のある者が、期限までに申告をしなければ、「無申告加算税」が課される。私たちは、この収受印によって、この義務を履行したことの「証拠」を手にすることができる。

消費税では、課税期間の前日までに、簡易課税選択届出書を提出しなければ、簡易税の適用を受けられない。税法にはこの種の規定が沢山ある。私たちは、収受印によって、提出日が、いつであったかの「証拠」を手にすることができる。

税理士であれば、収受印が、依頼された職務を完了した「証拠」となり請求の根拠となる。

収受印の役割は広い

融資を受けようとすると、金融機関から収受印のある申告書控えのコピーを求められる。その他にも、各種の申請等で、必須書類である事例は多い。

収受印の押捺された申告書の控え等は、所得や事業の状況を証明(説明)する信頼性の高い文書として、利用されてきた。

収受印に替わる措置(代替措置)

上記のように、収受印がはたしてきた役割は、不可欠なものであり、廃止の影響は極めて大きい。

廃止にあたって国税庁は、申告書等の提出事実・提出年月日を確認する方法はとして、(a)e-Taxによる申告・申請手続、(b)申告書等情報取得サービス(オンライン請求のみ)などがあるという。これを以下では「代替措置」と呼ぶこととする。

(a)e-Taxのメッセージボックス

e-Taxによる申告等であれば、メッセージボックスの受信通知で、確認する。また受信通知から電子申請等証明書の交付を請求することができる。

(b)申告書等情報取得サービス

書面提出であっても、所得税の確定申告書、青色申告決算書及び収支内訳書について、書面により提出している場合であっても、パソコン・スマートフォンからe-Taxを利用してPDFファイルを無料で取得することができる。

収受印廃止をめぐる意見

影響は大きいはずなのにネット検索しても、まだ、あまり話題になっていないようだ。収受印廃止に触れた税理士等のサイトでも多くは、国税庁の発表を紹介するのみか、対応として電子申告を推奨するものが、ほとんどであり、ごくたまに、反対意見もみかける。

反対論の代表として東京青年税理士連盟の意見書をみると、基本的には時期尚早論であり、主な論点は下記のようである。

・すべて納税者が、デジタル機器を使えるわけではない。
・e-Taxが普及した、増加が見込まれるといっても、紙ベースの申告も、まだ相当数ある。収受印が廃止されると、申告事実や、日付などを立証する手段がない。
・実務上、金融機関等から収受印のある書面の提示を求められることも多い。

なぜ廃止するのか

なぜ収受印廃止かといえば、「経済財政運営と改革の基本方針2020」(骨太方針)、規制改革実施計画(令和2年7月17日閣議決定)の「デジタルガバメントの推進による行政手続コストの削減」にあるようだ。

収受印廃止の問題点

収受印に要するコストは相当なものだと推測できる。

収受印廃止の「代替措置」として、e-Taxのメッセージボックスや「申告情報取得サービス」があるというが、e-Taxを利用しない(できない)、マイナンバーカードを持っていない人は、これらから除外されてしまう。「代替措置」が利用できなければ「申告書の控えがない」ということで、公的融資や「控え」を要求される各種の手続から排除されることも考えられる。そうなれば、死活問題である。ことは単に「収受印」の問題ではないのである。

行政手続きデジタル化の目的は国民負担の軽減と行政コスト削減にあるはずである。「業務のあり方の抜本的な見直し」によって、不利益が生ずる人がいるとすれば本末転倒である。

税務署に限らず、行政庁は、求めがあれば、書類を収受したこと、その収受した日付を明らかにする書類(いわゆる電磁的記録を含む)を交付することは、当然の義務であると考えられる。

「代替措置」で十分なのか、電子申請ができない(やらない)人への対応はどうあるべきか、デジタル時代の文書収受のあり方について、考えてみる必要がある。