今年の所得税は、今年が終わらないと確定しない。年の中途での「減税」は、意味がない。しかも、前年所得を基準として賦課される住民税との抱き合わせである。全くムチャな政策である。こんなことは、少し税金に詳しい人なら誰でも知っている。なぜこのようなことが、まかり通るのであろうか。
そもそも無理筋「定額減税」
定額減税は、一人4万円(国税分3万住民税1万)で、対象となる人は令和6年分(今年)の所得が1805万円以下の人である。所得税は、その年の1月1日から12月31日までの所得を課税の対象とする。今年が終わらなければ、所得も税額も確定しない。
6月分の給与が、減税の対象となり、源泉税の控除額が減税相当分だけ安くなったとしても、令和6年分の所得が、1805万円を超えると、確定申告で、6月減税分の取り戻しが発生する。つまり減税分を納付することになる。
逆に6月以後の給与から、定額減税によって、源泉税が安くなっていたとしても、後半の給与が下がる、または失業するといった事態になると、令和6年の所得税額が、「定額減税」に満たないとう事態も生ずる。この人たちにとって、6月以後の給与明細の「定額減税」は、定額減税ではなかったということになる。
年の中途での所得税「減税」には意味がないし、手間が増えるだけであり、そもそも無理筋の制度である。こんなことは、多少税金の知識がある人は誰でも知っている。
賦課期日をずらしただけ「住民税の定額減税」
住民税は、前年の所得を基準として課税される。一人1万円と決まれば、定額減税分を控除して賦課すればよい。この時点で、控除できない金額は明確になる。
今回の措置は、特別徴収(給与から控除する方式)について、一律6月分は、ゼロにして、定額減税控除後の税額を残りの11ヶ月で徴収するという方式である。これならば、住民税の賦課期日を6月1日から7月1日変更したことと同じである。
どうしても「6月減税」を実施したいならば、賦課期日を7月1日にすればよかった。これだけで自治体職員の負担は、相当減ったはずである。こんなことは声を大にしていうまでもない。当事者はみんなわかっていた。
なぜ、こんな無理が通るのか
今回の減税は、そもそも「無理筋」な政策である。6月実施にいたっては「朝三暮四」である。単に企業や、自治体職員に無駄な負担を強いるだけのものであることは、実務関係者は、みんなわかっていた。なぜ、こんなことがまかりまかり通るのか。
税務署から縁遠い納税者
なぜ、今回のようなことが起きるのか。根本的な原因は、日本の税制にあるのではないだろうか。現在の税制によって、税金について「知っているようで知らない」国民が創り出されている。
大多数の国民は税務署と縁がない。現在の税制では、サラリーマン(給与所得者)は、源泉徴収と年末調整で納税が済んでしまう。税法の原案を策定する公務員、学者やメディア関係者も、ほとんどが所得税の申告とは縁がない。「納税者」であっても、実際に税務署に申告せずに済んでいる。
多くの人が税に関する知識があれば、いかに政治主導であっても、このような政策が選択されるはずがない。「それは無理ですよ」「意味がない」という声がおきるはずである。
沈黙すべきでない専門家
定額減税で混乱がおきているという。税の専門家である税理士は、こうなることは、わかっていたはずである。専門家として意見を述べるべきである。私自身、意見をいってもどうなるものでもないことは、十分承知しているが、届かない声であっても沈黙すべきではない。