令和6年金融庁「税制改正要望」にびっくり

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生命保険に入ってください。税金おまけします。

毎年、各省庁から財務省に税制改正要望が提出される。みて驚いたのが、金融庁の「生命保険料控除拡充」という要望だ。

内容

内容は下記のとおりで、全体に控除額を増やす。さらに扶養するこどもがいる場合は、一般生命保険料控除を2万円増やすという内容である。

現行制度
一般 介護医療 個人年金
40,000 40,000 40,000
要望する制度
扶養するこどもあり 60000 50000 50000
なし 40000 50000 50000

「生命保険料控除への疑問」で、書いたように、生命保険料控除については、過去の税制調査会でも、廃止を含む見直しが答申されている制度である。

二重三重の疑問

疑問1,なぜ減税要求ばかりするのか

この要望書での歳入減の見積額は517億円である。

政府は、何かと「財政規律」を口にするが、各省庁の税制改正要望といえば、税収を減らす要望ばかりである。なぜなのか、理解不能である。

疑問2、政策目的は妥当か

生命保険料控除の拡充目的は
・遺族補償は遺族の生活費、子供の教育費用の備えとして重要
・生命・医療介護・個人年金の持つ私的保障の役割はますます大きい
としているが、本来、これらのセーフティネットは、社会保険制度が、担うべきものではないのか。

最低保障を超える給付を求める人が、私的保障を有償で希望することは、当然である。しかし、これに減税という助成をする必要があるのか。

疑問3,インセンティブ効果はあるのか

生命保険料控除が拡大すると、加入者が増加するのだろうか。この点は、なんとも評価しがたい。

勘違いして「控除額」が減税額と思っている人もいるが、生命保険料控除は、所得控除であり、この控除額だけ、減税になるわけではない。10万円の保険料を支払って、減税額はせいぜい数千円である。生命保険に新規加入を考えている人や増額を考えている人にとって、この程度の減税が生命保険加入のインセンティブになるのだろうか。

疑問4,なぜ給付でなく減税なのか

この要望理由を見ると、政策目的は、生命保険加入促進である。この政策の妥当性は問わないとしても、あきらかに「給付」「助成金」である。助成金ならば、減税という手段によらず、直接給付すべきではないのか。

生命保険料控除は、所得控除であり、高額所得者のほうが、恩恵が大きく、課税最低限以下の人は恩恵がない。政策目的からすれば、低所得者にこそ、助成すべきではないのか。

疑問5,税の現場の負担増をみているのか

この要望がとおれば、扶養するこどもの有無で控除額が変わるので、年末調整の「保険料控除申告書」が、改訂され、保険会社の発行する控除証明では、扶養する子の有無はわからない。年末調整事務は益々複雑になる。

税理士をやっていたときの経験だが、数名規模の会社でも、以前は、年末調整は自分でできる、という事務員の人がけっこういたが、複雑すぎて、できない。税理士に依頼するというところが増えた。税理士事務所にしても、複雑化したので、おいそれと「値上げ」をお願いしにくい、というところが多いのではないだろうか。控除が1万円変わるだけでも現場は大変なのである。

なぜ、このような項目が税制改正要望に入ってくるのか、どうしても理解できない。