年末調整、確定申告の季節になると、「生命保険料控除」というものに一種の違和感がついてまわる。一体何でこんなものがあるのだろうか。私の中で、「くだらない」とういう感覚がついてまわり、むだな仕事をしている気がしてならない。調べてみて、得た結論は、生命保険料控除廃止である。
突拍子もない話だが、年間10万円の生命保険料を支払っている、年収1000万のAに8千円、年収500万のBに4千円、生命保険料に対する助成金が支払われ、年収200万のCには助成金がないとすると、どうだろう。おそらく多くの人は不公平と感じ、なんでこんな制度があるかと疑問に思うに違いない。
税法に組み込んで、減税することと、給付金(助成金)として、交付するのも、国の収支としては、同じことである。
生命保険料控除の沿革
まず、いつ、いかなる理由で、この制度が作られたのか、その歴史をたどってみた。
・生命保険料控除制度は大正12年に議員立法により創設され、翌年から施行された。保険料を払い込んだ額のうち年額200円を限度とする税額控除である。衆議院議事録によると、提案者の提案理由は「保険業の大勢、事情、保険の奨励」などがあげられている。これに対し政府委員は「生命保険とほとんど一体である貯蓄預金のことも考慮すべきであり、政府としてはこのまま賛成できない」と述べていることが注目される。
・昭和22年に、旧所得税法の生命保険料控除は、廃止された。
・昭和26年に所得控除として復活(最高2,000円)。
・その後、個人年金保険料、介護医療保険の別枠控除などの創設があり、控除額は段階的に引き上げら現在に至っている。
税制調査会答申
税制調査会答申でも生命保険料控除については、たびたび取り上げられている。
昭和43年長期答申
・生命保険料控除等の誘因的控除については、現在の仕組みが煩雑である。
・誘因的控除については、控除額を決定するための客観的基準も必ずしも明確でない。
・貯蓄や寄付金の支出は各人の選択によって、各種各様であるから、これを誘因的控除の対象とする場合でも、一定の控除限度額のなかで自由に任せる方が、所得税として中立的である。
・これらの控除を一括した特別支出控除の形にまとめるのも一つの方向と考えられる。
平成14年「あるべき税制の構築に向けた基本方針」
・生損保控除や住宅ローン控除など、特定の政策目的のために控除が設けられており、税制の歪みを助長し、更には空洞化の一要因となっている。
・今般、人的控除などの税制の基本構造に関わる部分についても、課税ベース拡大という視点から廃止、縮減の方向を検討する以上、政策的措置としての控除については、より厳しくその妥当性を吟味の上、廃止を含め見直す必要がある。
・政策的控除については、廃止を含め見直す必要がある。
以上のような答申の基本方針に反し、生命保険料控除は、ますます複雑化し拡大している。
(沿革と税制調査会に関する事項、第一法規コンメータル所得税法を参照した)
政策的意義は喪失し、税の歪みをもたらす
大正12年創設時から、生命保険料控除は、保険加入を促進するための「誘因的控除」として位置づけられている。現在インセンティブをもうけてまで、生命保険加入を促進すべき理由が、見いだせない。
医療介護保険や、年金については、基本的には、公的社会保険の役割である。公的社会保険よりも高い給付を求めるのは個人の自由である。そこに減税というメリットを与える必要性があるか疑問である。
平成14年税制調査会の基本方針では、税制の歪みと課税ベースの浸食を問題点としてあげているように、政策的な所得控除は、所得の多い人ほど減税メリットを享受することになり、所得税の再分配機能に対して、マイナスの効果をもたらす。
複雑すぎて、源泉徴収義務者の負担が大きい
現在、生命保険料控除は、一般(新旧)、介護医療、個人年金(新旧)と区分され、ますます複雑になっている。
「年末調整のしかた」で、「次のような点に注意して控除額を確認し、正しく控除をおこなってください。」と7ページにわたって説明と注意点が記載されている。どれだけの人が、年末調整の「保険料控除申告書」正確に記載することができるのか疑問である。
私の事務所でも年末調整事務を受託しているが、保険料控除申告書の詳細は未記入のまま、控除証明書だけ添付してくる事例も相当数あるし、誤りを訂正することも相当数ある。制度が複雑になっており、かつて自分で年末調整事務を行っていたところも、税理士等に委託するとこが増えているように感じる。給与の支払者(源泉徴収義務者)の事務は間違いなく増加している。これは、政策実施のための費用であるが、この負担が問題にされたことはない。
以上から、生命保険料控除は廃止を含め見直す時期に来ている。