お役人の要望は減税ばかり、税金、余ってるのかな。
各省庁からの概算要求(予算要求)はニュースになっても、「税制改正要望」も出そろったようだが、こちらはあまり注目されない。
「租税歳出」とは
租税歳出とは税金の使い道のことではない。政府がお金を支出するのも、税金をおまけするのも、国の収支としては、同じことである。税金をおまけすることを専門用語では「租税歳出」と呼ぶそうである。「おまけする」とは、税制(税法)本来の理念を何らかの目的で逸脱して、「租税特別措置」として、立法化することをいう。予算要求も税制改正要望も性格は同じであり、もっと注目されてよい。
生命保険控除拡充要望
まだ、「改正要望」をまとめた一覧がアップされていないようだが、身近なところから、「金融庁の令和7年度税制改正要望について」をみると「安心な国民生活の実現」として「生命保険料控除の拡充」があり、農水省、厚生労働省、経済産業省、こども家庭庁の共同要望となっている。
昨年と同じであるが、要望事項は「23歳未満の扶養親族を有する者についての、生命保険料控除2万円上乗せ」である。
これについては、「令和6年金融庁「税制改正要望」にびっくり」で書いたし、「生命保険控除への疑問」でも書いてきた。
生命保険料控除-控除額1兆円、税額2,600億円?
どれだけの人が生命保険料控除の申告をし、その金額はいくらあるのだろうか。その金額を推計してみた。
令和4年「申告所得税標本調査」では、生命保険料控除の適用者510万人、控除額3555億となっている。所得階層ごとの内訳がわかるので、これに適用税率を乗じると、税額にして、およそ666億である。これは所得税の確定申告者だけであり、圧倒的多数を占める年末調整だけで完結する給与所得者の分は不明である。
給与所得者は、令和4年「民間給与実態調査」では、5000万人を超える。これを使って推計すると、生命保険控除は9600億円、税額にして、2000億円となる。
以上から、生命保険料控除は、所得税全体で、控除額1兆3000億、税額は2600億となる。
金額の推定
※年末調整で完結する納税者については、全く不明である。そこで「民間給与の実態調査」から、2000万以下の給与所得者のうち20%が、生命保険料控除の限度額12万円の控除を受けているものと仮定し(全員が限度額の20%24,000の控除を受けているのと同じ)、所得階層ごとに税率を乗じた。当たらずといえども遠からずという程度の推計であり、正確性に自信はないが、ともかく「とてつもない金額」だと思っていただければよい。
消えた「生命保険料控除」見直し論
過去の税制調査会答申でも生命保険料控除は「誘因的控除」として位置づけられ、「税制の歪みを助長し、更には空洞化の一要因となっている。課税ベース拡大という視点から政策的措置としての控除については、より厳しくその妥当性を吟味の上、廃止を含め見直す必要がある。」(昭和43年長期答申、平成14年あるべき税制の構築に向けた基本方針など)と、廃止を含む見直しが議論されてきた制度である。
私は財政均衡主義を支持するものではないが、現状でも、生命保険料控除によって、税源は蚕食されている。プライマリーバランスを日ごと口にする政府が、なぜ過去に見直しが議論された制度の上乗せをし、税収を減らすのか理解に苦しむ。
政策として妥当なのか
金融庁の要望理由をみると、目的は「子育て世帯への支援」であるという。しかし、生命保険料控除の個人への恩恵は微々たるものである。年収500万から800万クラスでは、2万円所得控除が、増えたところで、年間4,000円程度にすぎない。
子育て支援が目的ならば、生命保険料控除拡大による「租税歳出」に膨大な金額を使うより、もっと有効な方法がありそうである。
ひとこと
各省庁から予算の「概算要求」と併せて「税制改正要望」が財務省に提出される。これは実質的に第二予算である。冒頭に書いたように、こちらは概算要求ほど注目されることはない。今年のキーワードは「子育て支援」のようである。この要望の一部は、税制改正に反映され、益々税法が複雑になる。税理士を廃業した身ながら「これ以上税制を複雑にしないでほしい」と切に願う。