定額減税の「怪」

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目的の謎

岸田さんにとっては不本意なことだろうが、定額減税の評判が芳しくない。当初の説明では「税収の上振れ分」を還元するということだった。この趣旨ならば、所得税、住民税非課税世帯は対象外であり、低所得者は恩恵が少ない。現に、一人所得税3万円プラス住民税1万円という額だと減税しきれない人が2千3百万人も見込まれるという。

これでは、批判がおきるのは当然で定額額減税とセットで、給付金が組み込まれた。これは生活支援金である。こうなると「上振れ分還元」という趣旨と違ってくる。

最近話題になっているのは「減税分の給与明細記入」である。この目的は「デフレ脱却」だという。減税があったのだから、その分は消費に回してほしいということのようだ。

以上のように、この政策の目的が不明である。一番納得するのが巷間で言われる「人気取り」なのだろうか。

給付を税制に持ち込むな

給付目的の政策を税制に持ち込めば、税額のない人は恩恵がなく、税額が少ない人は恩恵が少ない。当然である。

定額減税の実務は、税務署が説明会を開き、国税庁が特設サイトを開設するほど複雑である。税金の計算は、きちんと法令で規定する必要がある。所得の種類も様々であり、給与といっても、中途就職者もいれば扶養の変動もある。「税」である限り、どこかで要件を定めて線引きせざるを得ない。多様な現実に対応しようとすればするほど複雑になるのも、これまた、当然である。

給付を目的とする政策ならば、税制に組み込むべきではない。

そもそも無理筋な設計

所得税は、当年の1月1日から12月31日までの所得を対象に計算され、住民税は前年の所得を基準として課税される。所得税3万円プラス住民税1万円という設計も理解不能である。

所得税を年の中途で減税するということが、どだい無理な話である。見込額で減税したとしても、年間所得が見込みより少なければ、年末調整や確定申告で取り戻し(不足)が、生じてしまう。

企業の負担やリソースの無駄遣いは無視

無理な設計で、特にめいわくを被るのが、小さな会社や個人事業者である。10人、20人という規模の会社には専任の担当者などいない。給与明細に記入することまで強制されたのではたまったものではない。

6月の住民税はゼロである。これならば、はじめから特例法で、住民税の賦課期日を6月1日から、7月1日にする選択もあったはずである。さらに、減税の不足分を給付するというから、自治体職員も大変である。また国税職員の負担も大変なものである。

いかにも、実務を知らない(無視する)やり方であり、無用な負担を増やし、リソースの無駄遣いである。実務を知っていれば、こうなることはわかっていたはずで、進言する人はいないのだろうか。これも謎である。