減税騒動

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突然の「減税」騒動である。新聞論調などでは、減税自体は歓迎しながらも、その意図や、効果に疑問を呈するものも多い。
減税といっても、それを実際に、実務を担うのは、給与の支払者、税理士などの実務家、税務関係の公務員である。

報道をみると、あいかわらず、「現場」の視点が欠落していることが気になる。

目的がみえない減税

報道では、今回の減税は「税収増の還元策」だという。https://www.yomiuri.co.jp/politics/20231027-OYT1T50000/

目的が、増収分の還元なら、沢山納めた人に、それにふさわしい還元をするべきで、定率減税が選択されて当然であり、所得制限もすべきではない。しかし、定額減税である。

一方で、国民負担の緩和という生活支援も目的だという。とすれば、多くの識者が指摘するように「減税」は、あまりにも迂遠である。

しかも、減税は1人4万、減税の恩恵を受けない非課税世帯の給付は1世帯7万だという。これでは、単身者以外は、非課税世帯の恩恵が少なくなり、生活支援という「うたい文句」にも疑問符がつく。

今回の減税は、目的がみえないのである。

どのような制度となるのだろうか

報道によれば、所得税一人あたり3万円プラス住民税1万円で、実施時期は来年6月だという。減税だけでは、所得税を納めていない人に恩恵が及ばないので、年内に1世帯あたり、7万円を給付するという。
減税実施の指示を受けて、どのような制度設計となるのか、不明であるが、相当複雑になることは、疑いない。

これに振り回されるのは、現場である。

所得税と住民税の違い

所得税は1月から12月分の所得に対して、その年分の所得税がかかる。給与所得者ならば年末調整で、事業所得者などは、翌年3月の確定申告で税額が決まる。

住民税は、前年の所得を基準として、市区町村が決定する。給与所得者ならば、5月中に勤務先に課税通知が送付され、6月の給与から、新年度の税額で給与から差し引きされる。事業所得者等は、6月1日付けで、課税通知が各自に送付される。

6月に減税するには

所得税の減税

減税には法律の改正が必要であり、実施時期は6月(以降)としている。この条件で選択できる所得税減税の方法は、6月に源泉徴収税額表を改定する以外に方法が思いつかない。

具体的には、6月から12月までの7ヶ月間で3万円相当額の税額が「減税」されるように、税額表を改定することになる。

3万円を7ヶ月で割ると4,285円となるから、単身者で、社会保険料控除後の給与が187,000円未満の人は、6月から税額がゼロとなり、それ以上の給与の人は、現行の税額から4,200円程度源泉税が減る。

住民税の減税

住民税は翌年課税なので、来年6月の課税通知から1万円減らすだけなので、所得税に比べ簡単そうであるが、減税分1万円の扱いはやっかいである。

減税前の税額から、1万円相当額を向こう1年で12ヶ月に均等に減らす方法と、1万円に達するまで、税額を減らす方法の二つが考えられる。

いずれにしても、地方税の担当者や、給与計算担当者の負担は大きい。

つきない疑問

所得税が3万円に満たない人

複雑なのは、所得税が3万円に満たない人の扱いである。この不足分を住民税から控除するという制度も検討されているようで、この不足額が確定するのは、2024年の年末調整であるから、この実施は2025年6月からということになる。

所得制限なら、さらに複雑化

バラマキ批判を回避するためか、所得制限案も検討されているようである。所得が確定するのは、年末調整か、確定申告時になる。

このギリギリラインの人の扱いもやっかいである。

ローン控除はどうなる

住宅ローン控除を差し引いても3万円以上の税額がある人は問題ないが、そうでない人はどうなるのだろうか。

ローン控除と今回の減税額3万円は、どちらを先に差引するのだろうか。

ざっと考えても、これだけ疑問点がでてくる。

鶴の一声の「減税」だが、源泉徴収票や確定申告書の書式も変更になる。ことはそう簡単ではない。