ピケティ「21世紀の資本」に、「1980年以降の英語圏における最高限界所得税率の大幅な引き下げは、最高経営者層への決定方法を完全に変えてしまったようだ。そのため今では最高経営者層にとって報酬の大幅な増額を求めるインセンティヴは以前より強くなってしまった」とある。
最高限界税率が高ければ「役員報酬でもらっても税金とられるだけ」であったが、税率が低ければ、この考え方は薄くなる。ピケティのいわんとすることは、こういう意味であろう。
所得格差の拡大
「21世紀の資本」によれば、アメリカでは、所得トップ階層0.1%の所得が、総所得の10%を占めるまでになっているという。1960年代には2%であったというから、驚くべき変化である。
日本はどうであろうか。トップ0.1%階層の所得は、1960年代には、1.5%であったものが、2010年には2.5%となっている。アメリカほど顕著でないものの傾向は同じである。ちなみに、日本では1940年には、0.1%の所得階層は総所得の9%を得ていたとう。驚きである。超格差社会である。
日本の限界所得税率
税率の低下は、日本も例外ではない。昭和61年(1986年)の最高税率は70%であったが、37%まで下がり、平成27年(2015年)以後は45%である。
「報酬増額のインセンティヴ」という点では、最高税率だけでなく、いくらから最高税率が適用されるという点も重要であろう。
最高税率が70%は、8000万円以上の課税所得(所得のうち8000万円を超える部分)に適用された。現在の最高税率45%は、4000万円以上の課税所得に適用される。
前者であれば、8000万円が上限という意思決定に影響をもっていたことは十分考えられる。これが4000万以上45%となると、おそらく、4000万円は上限とはならならず、超高額所得者にとっては、比例税率とかわらない。日本でも最高税率低下は「最高経営者層にとって報酬の大幅な増額を求めるインセンティヴは以前より強くなってしまった」と想像できる。
高額役員報酬の現状
役員報酬1億円以上は、有価証券報告書に記載する義務があるので、上場企業については、役員報酬は開示されている。
2023年の一位はZホールディングス取締役でLINEの代表取締役である慎ジュンホ氏。報酬は43億3500万円であり、52位までが5億円以上である。ピケティのいう「スーパー経営者」が、日本でも登場してきているようである。
日本の給与の実態
高額所得者
ピケティの資料に合わせるため2010年(平成22年)の「民間給与実態調査」をみると、民間の給与所得者(一年を通して勤務した人)の総数は4千5百万人であり、給与総額は187兆円となっている。単純平均すると一人当たり給与は412万円である。
ピケティによれば、日本では上位0.1%が2.5%を得ている。給与所得者(民間)の0.1%は、4万5千人であり、一人あたり1億3百万円となる。もちろん正確ではないが、だいたいのイメージはつかめていただけると思える。
民間給与実態調査では、2500万円を超える給与の人は、全体の0.3%で9万8千人である。単純に平均すると一人あたり、4040万円となる。
高額所得者以外
ピケティ風に、所得階層を上位10%、中位40%、下位50%と分けたいところだが、データの都合上難しい。上位を800万円以上とすると8%、中位を400万円から800万円までとすると33%、下位を400万円以下とすると、58%となる。
民間給与の中央値は、300万円から400万円のところにあり、単純平均では412万円である。およそ半分の人の給与は300万円以上500万円以下である。この傾向は、直近の2020年(令和4年)の民間給与実態調査でもあまりかわらない。
おおまかにいうと、民間給与は、上位(800万円以上)の人が、1割、中位(400万円から800万円)が4割、下位(400万円以下)が、5割である。
私たちは変更を受け入れた
現状を「格差社会」という人もいる。格差自体を肯定する人も否定する人もいる。
1980年代後半から、流れが変わった。とても大きな変化である。平成11年(1999年)から平成18年までは、1800万を超える部分の最高税率は37%であった。さすがに現在は、限界税率は4000万円超、45%となっているが、私たちの社会は「金持ちにやさしい」ルール変更を受け入れてきたことは、間違いない。