所得税本来に仕組みでは、所得が多くなるほど、税負担率が上がる。ところが、今の税金の仕組みでは、年間所得1億円を超えたあたりから、負担率が下がる。国税庁の申告所得税標本調査をみても、明らかに一億円の壁は存在する。
グラフ1:所得階級別所得税負担率
グラフの説明
申告所得税標本調査では、所得階級別に、人員、合計所得金額、算出税額の合計額等が集計されている。令和4年標本調査の一人当たり合計所得金額と一人あたり算出税額を計算し、単純に「税負担率」(合計所得金額に対する算出税額の割合)を所得階級別に表したものである。
申告所得税標本調査
国税庁が、実際の申告データから、標本を抽出し、母集団(申告者全体)の実態を推計したものである。令和4年では、申告者総人員は650万人余となっている。
一億円の壁は存在した
一見してあきらかなように、一億円の壁は確かに存在する。表にすると下記の通りである。
所得階級 | 所得税負担率 |
---|---|
5千万~1億 | 26.1% |
1億~2億 | 25.7% |
2億~5億 | 23.9% |
5億~10億 | 21.9% |
10億~20億 | 20.9% |
20億から50億 | 19.8% |
50億から100億 | 15.5% |
100億以上 | 17.2% |
合計所得5千万円から1億円の階級の負担率が一番高く、以後は負担率が下がっていく。
※課税所得(合計所得から所得控除を差し引きした金額)では、ないので、課税所得を基準とすれば税負担利率は、もっと高くなるが、傾向はかわらない。
原因は分離課税
所得税法では、総合課税であり、累進税率となっているので、一億円の壁は存在するはずがない。所得が高くなれば、税負担率は高くなる。いうまでもなく、一億円の壁の原因は租税特別措置法による分離課税にある。
「他の区分に該当しない所得者」という存在
標本調査は「主たる所得」別に5分類されている。分類は「事業所得者」「不動産所得者」「給与所得者」「雑所得者」であり、この区分に該当しない者を「他の区分に該当しない所得者」としている。
グラフ2:「他の区分に該当しない所得者」と全体
グラフ1は、5分類の合計である。これに「他の区分に該当しない所得者」のラインを加えた。これによって、一億円の壁の主な原因は、「他の区分に該当しない所得者」にあることがみてとれる。この相当数が金融所得であることは、想像できるが、実態調査ではわからない。
所得階級 | 他の所得区分に 該当しない所得者 | 全所得者合計 |
---|---|---|
5千万~1億 | 16.33% | 26.08% |
1億~2億 | 17.26% | 25.70% |
2億~5億 | 18.02% | 23.89% |
5億~10億 | 18.55% | 21.93% |
10億~20億 | 18.09 | 20.88% |
20億から50億 | 17.42% | 19.75% |
50億から100億 | 15.49 | 15.49% |
100億以上 | 16.80% | 17.22% |
ひとこと
「一億円の壁」は崩すべきである。しかし壁は安泰である。なぜ安泰かといえば、『なぜ「一億円の壁」くずれないのか』で、書いたとおりである。