昨年10月に始まった消費税のインボイス制度についてのアンケートの結果を「インボイス制度を考えるフリーランスの会」が公表した。全回答者(7018人)の92%が「デメリットが多いので制度の見直しや中止を望む」と回答したという。
これは予測された結果である。免税事業者の排除や差別、誹謗中傷、課税を選択した場合の消費税「自腹」、単価切り下げ要求などがおきている。
事業所得の申告者が450万人、消費税の申告者が100万人で、そのほかに雑所得で申告している人もいるので、対象は数百万人と思われる。
下記には、生の声が紹介されている。
当事者だけの問題ではない
このままでは、この方たちの生活が成り立たない。
私たちの生活の多くが、税法上は「個人事業者」とされる、建設業の一人親方、通販の配達員、テレビ、アニメ、WEBのコンテンツ作成者など、「フリーランス」の方に依拠している。
これらの方が、インボイス制度によって廃業に追い込まれるようになれば、国民生活全般にかかわる、みんなの問題なのである。
問題の根源は消費税の仕組みにある
消費税については、ほとんどの人が誤解している。問題の根源は消費税の仕組みにある。
消費税の納税義務者は「消費者」ではなく、「事業者」である。実際に税務署に消費税を申告し納付している人は、個人100万人、法人180万社にすぎない。
消費者が払うレシートの「税」は、税金ではなく、商品価格の一部である。
納税義務者(事業者)は、レシート(請求書)の「消費税」をそのまま納税するのではなく、「仕入税額」に相当する金額(仕入税額控除)を差し引きして納税する。
消費税は「価格決定権」のない側の負担となる
消費税の税額は「対価の額」(税込み金額のこと)を基準として算出される。
法律上の納税義務者は「事業者」とされているが、消費税は「価格決定権のない」側の負担となる。
スーパーなど大型量販店などは「価格決定権」がある。消費者は提示された価格で買うしかない。
フリーランスの方の場合は、発注者側に価格決定権があることが多いと思われる。
ラーメン店の店主がラーメンを1杯600円で売ろうが680円で売ろうが自由であるが、対価の額のうち、10%が消費税とされる。本来680円としたいところだが、やむを得ず600円としているとすれば、消費税は自腹となる。
消費税は、「自由な市場」取引に依拠し「市場価格」を基準として、課税される税である。「自由な市場価格」の決定権はどちらの側にあるか考えて見てほしい。
公正取引委員会の見解
「取引上優越した地位にある事業者(買手)が、免税事業者との取引において、仕入税額控除できないことを理由に取引価格の引下げを要請し、再交渉において、双方納得の上で取引価格を設定すれば、結果的に取引価格が引き下げられたとしても、独占禁止法上問題となるものではありません。
しかし、再交渉が形式的なものにすぎず、仕入側の事業者(買手)の都合のみで著しく低い価格を設定し、免税事業者が負担していた消費税額も払えないような価格を設定した場合には、優越的地位の濫用として、独占禁止法上問題となります。」
「消費税分をまけろ」は、転嫁拒否だが、単に値引きを要求することは、通常の価格交渉である。消費税が当事者の取引価格を基準に算出される仕組みなので、どんなに「転嫁拒否」を取り締まろうとしても、できるはずがない。
知られていない消費税
「緊急意識調査」を読むと、免税業者への誹謗中傷もあり、これは完全に誤解に基づくものだ。また、免税事業者自身も、必要ないのに、課税事業者を選択した事例もあるようだ。
課税事業者になることを強要する、免税事業者であることを理由とした単価切り下げは、違法であることは、公正取引委員会が警告しているが、課税事業者である発注者にも「免税事業者を使うと損になる」という思い込みがあるようだ。仕入控除の対象にならない金額は、そのまま「経費」=損金になるので、単純に「損」になるわけではない。
消費税を申告している人は、国民全体から見れば、ごくわずかであり、実際に自分で計算している人は、さらに少ない。仕組みが知られていないのである。このままでは、本当に廃業が続出しかねない。消費税についての理解が進めば、見直すべきという声も大きくなってくると思われる。
消費税の仕組みについて、広く知ってもらう以外に打開策はなさそうである。