インボイス制度への免税事業者の対応_公正取引委員会Q&Aを参考に

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一番難しい選択を迫られるのが、課税事業者を売上先とする免税事業者(BtoB)です。公正取引員会HPに「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」(以下 公取Q&Aと呼びます)が掲載されています。
この文書を参考にしながら対応を考えてみます。

選択をせまられる免税事業者

改正自体は、消費税の税額計算に関する改正なので、消費税の申告納税をする必要のない免税事業者は、基本的には無関係ですが、取引先から、インボイスの発行を求められた場合「登録事業者でないので発行できません」と回答するか、要求に応えて、課税事業者を選択し、消費税を支払い、インボイスを発行するかの選択を迫られます。

売上先が事業者(会社)だと選択をせまられる

インボイスの発行を求めてくるのは、課税事業者です。主な売上先が、事業者(会社)である、設計、デザイン、芸術関係などの専門職、IT関係、WEB関係のフリーのエンジニア、建設業の一人親方などは、難しい選択を強いられます。

課税事業者を選択しないとインボイスは発行できない

インボイの発行を求められ、要求に応ずるためには、「課税事業者選択届」を提出して課税事業者になる必要があります。

以後免税事業者でなくなるので、消費税の申告と納付が必要です。

消費税の納税額を知る

まず、課税事業者を選択したときに、どのくらいの消費税の納税額となるのか調べてみましょう。簡易課税を選択すると安くなることがありますが、簡易課税選択届出が必要です。簡易課税であれば、予定売上額から、税額を計算することは簡単ですが、簡易課税は、業種区分が難しいので、税理士に相談することをお勧めします。

登録事業者となるような慫慂(しょうよう)等

免税事業者に対し売上先から、「インボイスを発行して欲しいので、課税業者になって欲しい」と要請されることも想定されます。

公取Q&Aでは、このような慫慂自体は問題ないとしていますが、「課税事業者にならなければ、取引価格を引き下げるとか、それにも応じなければ取引を打ち切ることにするなどと一方的に通告することは、独占禁止法上又は下請法上、問題となるおそれがあります。」としています。

「免税業者のままなら、もう取引しない」といった通告は、「問題となるおそれある」としていますが、「課税業者になるような要請」そのものが、圧力になることは、間違いないので、下請け業者等にとっては、事実上の強制となってきます。

免税業者であったが、外税で消費税を請求していた場合

現在、免税事業者であっても、請求書に「消費税」という項目があって、請求している、という事例も多くあると思います。これは、インボイス制度施行前までは、何ら違法ではありません。

「世間がみなそうなので」という方も多いのかもしれませんが、「仕入れ分の消費税をもらわなければ利益がなくなる」「自分は免税で、消費税を払わないのでこの単価で、なんとかやっていける」が、本音ではないでしょうか。

今後も免税を選択

令和5年10月1日以後は、適格請求書類似書類の交付が禁止されます(第57条の5)。
課税事業者となるよう要請されても、免税のままを選択した場合「では、今後は請求書の消費税分は認められない」といわれた場合、事実上の値下げとなりますが、これを受け入れざるをえないのでしょうか。

公取Q&Aから、関連する事項を要約すると
・民間の取引条件は、当事者の自由
・インボイス制度を契機として、取引条件を見直すこと自体は問題ない
・優越的地位を濫用して、不当な不利益を与えると独占禁止法上問題となるおそれがある

上記は、免税事業者と取引する際の注意喚起ですが、歯切れの悪い表現です。これもやむを得ないのですが、ここに消費税の難しさが表れています。

「今後消費税分は払わない」という行為は、取引条件の見直しであり、これが「優先的地位の濫用」であれば、問題となるおそれがあるということです。

このような文書が存在することを念頭において価格交渉の参考にしてください。

課税を選択した場合

やむを得ず課税を選択した、または、自ら有利と判断し、課税業者を選択した場合は、まず課税事業者となった場合の納税予定額を知ることです。

消費税の税額を知る

消費税をいくら納めることになるのか、簡易課税が有利かなどを調べてみてください。

簡易課税選択届出の有無で税額が大きく違うということもあり得ます。

価格交渉について

従来「自分は免税で、消費税を払わないのでこの単価で、なんとかやっていける」と思っていた方も、消費税を払うなら、価格を上げたい、上げて欲しいと思っておられる方もおられると思います。

公取Q&Aに下記の記載があります。

「免税事業者が、当該要請に応じて課税事業者となるに際し、例えば、消費税の適正な転嫁分の取引価格への反映の必要性について、価格の交渉の場において明示的に協議することなく、従来どおりに取引価格を据え置く場合についても同様です。」(優越的地位の濫用となるおそれがあるという趣旨)

公正取引委員会のQ&Aからみる消費税の難しさ

公取Q&Aを紹介してきましたが、消費税の難しさが如実に表れています。

民間同士の価格交渉は自由であるという、大原則があります。しかし、優越的地位の濫用となる事態を放置することは、望ましくないとする観点から、独占禁止法、建設業法、下請法などの規制法があって、一定の場合、国家は取引に介入します。

ところが、なにをもって「優越的地位の濫用となる」かは、明確な物差しがあるわけではありません。これがこの文書の「おそれがあります」という表現につながります。

また、相談窓口の連絡先が書いてあっても、実際に相談することは、相当敷居が高いと思われます。