所得再分配のネガティヴ面

この記事は約3分で読めます。

租税の重要な役割として「所得再分配」あげる人が多い。租税法の泰斗である金子宏先生の「租税法」でも、日本国憲法の暗黙の了解事項として「再分配」があり、「租税を通ずる方法が最も適切」であると述べておられる。

私も、これまで、このことに、何の疑問も抱いていなかったが、先日読んでいた本の中で「再分配」のネガティヴ面を指摘しているのみつけた。読むと納得できることが多い。

ネガティヴ論は、下記で著者が紹介している論稿のものである。

「MMT現代貨幣理論入門」 東洋経済

再分配の仕組みは持続しない

累進税率、社会保障、セーフティネット、最低賃金など再分配の仕組みは一旦確立しても、徐々に弱体化する可能性があり、たいていは実際に弱体化する。

こと日本の税制については、まさしくその通りである。総合課税、累進税率という所得税本法の規定は、金融所得には適用されず、分離課税、定率(低率)課税となってしまった。これを問題視する声もあるが、変わる気配はない。

なぜ、なし崩しになるのかといえば、簡単に答えを見つけ出すことはできない。

再分配は社会的軋轢を生む

税=公共サービス対価+再分配原資

税の必要性、なぜ税金を払うのか「税金とは公共サービスの対価と再分配の原資である」という考え方も一般的であろう。とすれば、「自分は対価以上のものを払っている」と考える人が、相当数存在することは容易に想像できる。再分配反対論であり、「低所得者は怠け者」という考え方に、たどりつく。

一方、再分配支持者側は倫理に訴えるのみであり、再分配がないと格差が拡大し、資本主義、社会体制を危うくすると主張する。

再分配をめぐるコンセンサスの問題であり、再分配は、社会的軋轢、分断の要因となる。これも事実であろう。

再分配にはコストがかかる

税を使った再分配(の管理)には、税によって賄われる大きな官僚組織が必要であり、コストがかかる。租税への反対は、簡単にIRS(内国歳入庁)のような官僚組織に対する反対へと拡大する。それらの官僚組織は、たいてい個人のプライバシーを侵害し、利益誘導、賄賂、職権乱用のターゲットとなる。これが露呈すると再分配反対論に拍車がかかる。

この見解も納得できるものである。

この論稿のタイトルは「所得再分配よりもよい」である。不平等、格差は減らすべきであるという立場から、再分配は必ずしも有効な施策でなく、むしろ事前分配に着目すべきであるという主張である。

税金「会費論」について

国税庁WEBの「税の学習コーナー」をみると、税の必要性について、公共サービスの提供のためには、多くの費用が必要であり、「税は、私たちが社会で生活していくための、いわば「会費」といえるでしょう。」とある。この「会費論」が強調されると、「税はサービスの対価である」という理解が広がり、「自分の負担は公平なのか」となり、フリーライダー論や再分配に否定的な論調を助長する結果になるように思える。

以上のように、再分配をめぐる問題は一筋縄ではいかない。