グロテスクなまでの税務六法の厚さ
手元の税務六法(新日本法規版)では、法令編が四冊ある。総ページ数は、1冊目2539ページ、2冊目1910ページ、3冊目3020ページ、4冊目1703ページで、合計9182ページであり、厚さは20センチである。グロテスクなまでの分量である。私の記憶では、仕事を始めたころは、一冊であったと思う。およそこの半分以上が、「租税特別措置法」関係であり、これだけ厚くなった原因は「租税特別措置」である。
租税特別措置とは何か
「租税特別措置」とは、昭和32年から毎年改正が繰り返される「租税特別措置法」という名の法令である。
なぜ「特別」か、といえば、各税法には、「こうでなければならない」という何らかの理念がある。こうでなければならい、という「標準構造」から、政策目的によって逸脱したものが「租税特別措置法」である。税務六法の異常な厚さは、現在の税制が本来の理念から、逸脱している結果である。
租税特別措置の多くは「租税歳出」
租税特別措置といっても、政策目的であることから増税項目も減税項目もあるが、政策目的による租税の軽減は、政府が補助金を出すのと同様な効果があることから「租税歳出」または「租税支出」と呼ばれる。
こんな税法に誰がした
こんな税法(税制)に誰がした?答えは「タックス・イーター」であり、「タックス・イーター」(志賀櫻 岩波新書)に詳しい。志賀氏のいう「タックス・イーター」とは、税金を食い物する奴らといった意味であろうか。その実体は「政官業」の鉄のトライアングルであり、中枢は「族議員」だという。俗に「農水族」「道路族」などといわれる国会議員である。
税制改正は、実際にどうなっているのであろうか。総務省「税制改正要望」のページに各省庁の要望がまとめられている。
この大半が政策減税の要望であり、実体は予算要望と変わらない。もはや「税」なのか「補助金」なのかわからない。
減税は政策目的に資するのか
政策目的の減税の必要性を否定するものではないが、「減税」というインセンティブは、どれほど人の振る舞いに影響を及ぼすものであろうか。わたしはかねてより、疑問である。個々の政策目的の是非は問わないとしても、減税が政策目的に資するものであったか否かの検証は必要である。そうでないと税務六法の異常は拡大するばかりである。
発言しない税理士
税法が複雑になればなるほど、その分野に詳しい税理士が登場する。知っているものがより得をするのであり、知らなければ税理士としての職務怠慢である。しかし、この現状には、素直に賛成することができない。
税法が複雑になればなるほど、メシの種になるという見解の持ち主もいるであろうことは想像に固くないが、税には「税」としての理念があるはずである。税理士諸氏から「今の状態は異常だ」という声が聞こえないのは残念である。
2022/05/20