目まぐるしく変わる住宅ローン控除は、税理士泣かせである。令和7年税制改正大綱によると「子育て支援に関する政策税制」として、子育て世代の住宅ローン控除を上乗せするそうだ。
対象となる人
この特例の対象は「特例対象個人」といい、年齢40歳未満で配偶者を有する者か、40歳以上であっても配偶者が40歳未満の者、又は年齢19歳未満の扶養親族を有する者とされている。
「子育て支援」という名目であることから、何らかの線引きが必要となったのであるが、根拠は不明である。45歳未満とすれば対象が、広がる。減収見込から線引きしたのだろうか。なにやら「帳尻合わせ」のようだ。最近の税法改正は、似たような事例が多く、実務は煩雑になる一方である。
上乗せとは
「認定住宅」の借入限度額を「特例対象個人」に限り4500万から5000万と500万上乗せする。同様にZEH水準省エネ住宅については、1000万上乗せ、省エネ基準適合住宅については500万上乗せとなる。
減税規模は
住宅ローン控除(税額控除)はローン残高の0.7%なので、500万上乗せで、対象となる人は最大3万5千円の減税である。
税制改正大綱の「増収減収見込額」によれば、この改正による国の減収は290億円である。
上乗せ減税の恩恵を受ける人
認定住宅では上乗せ減税の恩恵があるのは、年間所得税額が315,000円以上の所得のある人で、かつ4500万以上の住宅ローンを組む人である。
ローン控除(税額控除)はローン残高の0.7%なので、これ以下の税額の人やローンが4500万以下の人は上乗せの恩恵はない。
年税額315,000円は月額で、26,250円であり、現行の給与源泉税額表でみると、扶養1名で、社会保険料控除後の給与が520,000円前後が該当する。この給与だと社会保険料が、おおむね75,000円ほど控除されているはずなので、給与の総支給額は約60万円であり、年収では720万円ほどになる。
これは税額計算だけの話であり、実際に4500万、5000万というローンを組める人の年収は、もう一段階上であろう。
したがって、上乗せ措置で減税の恩恵を受ける人は年収800万以上(年収800万で5000万のローンが組めるが疑問もあるが)の人と考えるのが順当である。
給付を税制に組み込むな
何度も書いてきたが、税金をおまけするのも、予算として支出するのも財政にとっては同じである。
今回の措置を予算支出として組み込み「年収800万以上の人が住宅を取得するための助成として国は新たに290億円を支出する」といえば、どれだけ国民的コンセンサスが得られる疑問である。ましてやこれが「子育て支援」だといって、どれだけの人が納得するであろうか。
住宅取得控除以来、現在のローン控除に至るまで歴史は長く、当たり前のように存在する制度である。住宅ローン控除は明らかに「給付」であり、所得税法に「税額控除」として組み込めば、必然的に税額の少ない人(所得の低い人)に不利になる。しかもこの種の制度については、過去の税制調査会答申では制度そのものに疑問が呈されている。
基本的に給付行政を減税として税制に組み込むべきではないし、拡大すべきでないことは言うまでもない。