インボイス制度の導入で、免税事業者の排除、免税を理由とした単価切り下げ要求、やむをえず課税事業者を選択しても、消費税が「自腹」となるなど、様々な問題が起きている。
現場を離れてしまったのだが、インボイスの導入で、小規模な事業者間で、消費税の「押し付け合い」がおきていないか気になる。インボイスは免税事業者だけの問題ではない。下記のようなことは全国どこでも起きているはずである。
課税事業者も困っている
課税事業者である工事店(業者)が、免税の下請け業者を使っている。この下請け業者は、これまで工事代40万円+消費税4万円で、合計44万円という請求書を出してきた。免税なので、この消費税は納付していない。工事店側もこれは知っているが「消費税」の請求を認め支払ってきた。工事店は消費税の申告にあたっては、この4万円を「仕入全額控除」として差し引いてきた。インボイス導入によって、下請け業者が、課税を選択しなければ、仕入控除は適用できない。おそらく、建設業の一人親方とよばれる個人事業者の多くは免税事業者である。
工事店の社長は、インボイスなし(免税業者)のままならば、以後は消費税なしで40万にして欲しい、と要求するだろうか。
下請け業者は、これまで「慣例」として外税方式で請求してきたが、消費税を払わないことを前提としての単価であり、4万円も値引きしたら、やっていけないと感じている。やむを得ず課税業者を選択するかもしれない。そうすると、192,000円の消費税を納付しなければならない。
(注)年間売上480万で、簡易課税4種 ただし2年間は特例で96,000円となる。
大企業ならいざしらず、自身も小さな工事店の社長は、下請け業者の実情がわかっているだけに、苦慮することになる。下請け業者に課税を選択することを求めれば、これまでどおり「仕入控除」が適用される。しかし、免税のままならば、工事店は仕入控除が適用されず、自社の消費税が増える。
インボイスが始まったことによる消費税の押し付け合いである。
当事者に知って欲しいこと
免税下請け業者
消費税は、免税事業者であっても売上を課税対象とする。免税制度は、小規模事業者のための、一種のセーフティネットであり、権利である。一部で流布されている「ネコババ論」は誤りである。免税であっても、車両費や工具代、消耗品類は自己負担であり、これらの消費税相当分は、請求額に転嫁して当然である。
インボイス導入後は、「消費税」名目で請求はできないので、免税で、消費税を払わないことが、前提の単価であったとすれば、単価自体の引き上げを求めていくしかない。
課税事業者の工事店
消費税の計算方式が本則(簡易課税を選択していない)ならば、インボイスのない下請け業者への支払いは仕入控除の対象にならず、消費税の納税額は増える。業態によっては、びっくりするほど増加するはずで、インボイスは免税事業者だけの問題ではない。
しかし、今までどおり消費税相当額を支払えば、経費(損金)算入額は増加するので、所得税、法人税は、減少するはずである。具体的な金額は、税理士に相談してほしい。
自分(自社)が消費税の計算方式で「簡易課税」を選択しているとすれば、インボイスは「仕入控除」の問題なので、下請け業者にインボイスを要求する必要はない。これまでどおりである。
公正取引委員会は
Https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/Invoice_system/dai1/siryou3.pdf
公正取引委員会は、免税業者との取引について、「双方納得の上で・・・取引価格が引き下げられたとしても、独占禁止法上問題となるものではありません。」とし、「免税事業者が負担していた消費税額も払えないような価格を設定した場合には、優越的地位の濫用として、独占禁止法上問題となります。」というが、小規模事業者は、どちらも大変なのである。