消費税の不思議

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消費税はつくづく不思議な税である。

  • 消費税は選挙の争点となり選挙結果に大きな影響を及ぼす。
  • 消費税は国の租税収入およそ30%で金額にして17兆円である。これは所得税の19兆にわずかに及ばないだけで法人税の12兆より多い。この意味でも消費税は非常に重要な税である(平成30年予算額)。
  • 消費税を税務署に申告し納付している「納税者」は法人個人を合わせ300万人(社)にすぎない。しかし国民の大多数は、自分は消費税を払っていると信じている。
  • 消費税は消費者に転嫁され最終的に消費者が負担する税だと言われる。ところが一方では、「消費税が上がったからといって値上げができないよ。結局自分でかぶるしかないよ」という飲食店なども多い。

消費税転嫁対策特別措置法という法律があって、消費税の転嫁を阻害する行為の取り締まりが行われている。しかし、いかに政府が「転嫁拒否」を取り締まろうとしても消費者の「買わない」「買い控え」という転嫁拒否には打つ手がない。
以上から分かるように消費税は消費者が負担するものといえるほど簡単なものではい。消費税とは一体どんな税金なのだろうか。

消費税の仕組み

課税の対象

改めて消費税法の規定をみてみると「国内において事業者行った資産の譲渡等」を課税の対象としている(輸入品も消費税の対象となるが、ここでは通常の国内取引に話を限定する)。

ここでいう「事業者が行つた資産の譲渡等」とは、企業や個人の商店飲食店などが、お客さんからお金をもらって、商品を売ったり、サービスを提供することである。ここで注意して欲しいのは「事業者行った資産の譲渡等」としていることだ。事業者が行ったものでなければ消費税はかからないということだ。ちなみに、ここで「事業者」という限定がなければサラリーマンの役務提供も消費税の課税対象となり給料も消費税がかかることになる。

納税義務者

次に納税義務者につては、「事業者は、国内において行つた課税資産の譲渡等につき、この法律により、消費税を納める義務がある。」と規定している。

消費税法の規定では、納税義務者はあくまで事業者であって消費者ではない。

なお小規模事業者には事業者免税という制度があるがここでは触れない。

消費税の計算と納付

では事業者は、どれだけ消費税を納付する義務があるのだろうか。話が専門的になるので、簡単に説明すると、次の算式で消費税を税務署に申告して納付することになる。

納付税額=(売上でもらった消費税)―(仕入れで支払った消費税)

この「売上でもらった消費税」とは、いささか専門的になるが、「課税標準」×「税率」で計算する。では「課税標準額」とは何かというと「売上の対価の額で消費税に相当する額を含まない額」で、要するに「税抜き」の金額のことである。

消費税法の規定を整理すると「売上でもらった消費税」の計算は次のようになる。

((税込み対価の額)-(消費税相当額))×消費税率

売上でもらった消費税を計算するためには、まず消費税相当額の計算が必要で・・・となり何か混乱してこないだろうか。

答えは簡単で消費税率が8%の場合次のように計算する。

(税込み金額)÷1.08×8%

税込み金額とは、実際にお客さんからもらう金額である。結局消費税法の規定ではモノを売った限り消費税をもらっていないということはあり得ないということになる。

次に「仕入れで払った消費税」も同様で税込み金額の8÷108で計算する。

お客さんからもらった消費税をそのまま税務署に納付するのでなく、仕入れ段階で支払った消費税を差し引きした金額を納付する方式は「前段階税額方式」とよばれ、これによって流通段階で税が累積しないために考えられた方式である。

なお小規模事業者には「簡易課税制度」という制度があり、売上だけから納付税額を計算する方法が認められている。

国税庁のパンフレットの説明

この消費税の仕組みを国税庁のパンフレットでは次のように説明している。

・消費税は、商品・製品の販売やサービスの提供などの取引に対して広く公平に課税される税で、消費者が負担し事業者が納付します。

・消費税は、商品・製品の販売やサービスの提供などの取引に対して、広く公平に課税されますが、生産、流通などの各取引段階で二重三重に税がかかることのないよう、税が累積しない仕組みが採られています。

・商品などの価格に上乗せされた消費税と地方消費税分は、最終的に消費者が負担し、納税義務者である事業者が納めます。

租税転嫁と租税帰着

しかし第3点目の「最終的に消費者が負担し、納税義務者である事業者が納めます。」という説明は、「税の転嫁」の説明であり「租税帰着」の問題を一切語っていない。もっとも租税官庁である国税庁が租税帰着の問題に触れることはありえない。

税の転嫁とは、法律上納税義務者が税の負担を他者に移し替えることであり、消費税は、消費者への転嫁を予定した税である。「最終的に消費者が負担し、納税義務者である事業者が納めます。」という説明は、税の転嫁のみを語っているのである。

租税帰着とは、租税の負担の最終的な帰着、結局だれが負担するのかという問題である。消費者が支払う「消費税」は価格の一部であり消費税が市場システムに依拠した税であり経済全体の複雑な影響があることは自明である。

しかし、あくまで、消費者が支払う消費税は税ではなく商品代金の一部であり、「自由経済」「市場経済」の日本では、価格(もちろん税込み価格のことである)は、各経済主体(売り手、買い手)の自由意思と競争によって決まるのである。

市場システムで取引されるモノやサービスには、価格が上昇したかたらといって、購入量が変わらないものもあれば、減ってしまうものもある。これを需要の価格弾力性という。

消費税は、その仕組みからいって、市場で取引される総需要が増加すれば税収が増加し、減少すれば税収も減る。しかし転嫁だけで消費税の議論をすることは誤りである。軽減税率の導入など消費税が大きく変わろうとしている今、制度の変更が結局どこに落ち着くかという租税帰着の問題を議論の対象とする必要がある。

具体例

税率アップや軽減税率の導入問題を転嫁の問題だけで考えることは一面的であり、誤りである。財政学者や経済学者の研究を待ちたいが、実務家として思いつく具体例で考えてみたい。

売り手が十分に強力であり、価格を自分の意思だけで決定でき、税金を消費者に転嫁しても需要量が減らない(価格弾力性がゼロか低い)場合は消費者が消費税を負担することになる。スーパーで販売される大企業製品である生活必需品などが該当しよう。

価格が上昇すると消費者マインドが冷え込んでしまうため売り手としては、多少価格を下げても販売量を減らさないという選択を強いられる場合がある。この場合、消費税は、供給側と消費者双方が負担することになる。奢侈品や趣味、観光消費などが該当しよう。

売り手が弱く、競争も激しく代替品が多い場合、消費税の大部分は売り手が負担することになる。典型的には小さな飲食店や商店街の日用品小売店(生鮮食品、日用雑貨小売など)や製造小売店(惣菜店、ベーカリーなど)である。

結論

消費税は市場システムに依拠した税であり、全経済体系と複雑な関係にある。その意味で消費税は非常に難しい税金であり、これを変更することは、売り手、買い手とも多大な影響がある。転嫁だけで語ることは誤りであって、その影響に目を塞ぐことになる。