消費税は、どうやって税務署に納付されているのでしょう。
減税や軽減はウケはいいのですが、効果はあるのでしょうか。
一般の方も、基本的仕組みを知って欲しいのです。
その上で、消費税をめぐる議論が活発化することを望んでいます。
「毎日の買い物の都度消費税を払っている」と思っている方も、ではどうやって、消費税が税務署に納付されているかなど、考えてみたことも、関心もないかもしれません。ほとんどの方は、レシートの「税」がそのまま税務署に納付されているものと、思っておられるでしょう。しかし、そうではないのです。
現在、消費税の申告をしている人(会社)は、およそ300万人(社)ほどですから、「消費税はどうやって税務署に納められているか」には、関心がないのも無理がありません。
私は、税理士として、ちいさな会社や個人事業主の消費税申告書を作成してきました。みなさんの消費税のための事務負担や納税のための苦労は、大変なものです。消費税の申告に縁のない一般の方にも消費税について、知っていただきたいと思いこれを書いています。
消費税の納税義務者は事業者
消費税法は「事業者」を納税義務者としています。毎日買い物するスーパーや商店、飲食店を連想していただいて結構です。これらの会社や商店が税務署に「消費税申告書」を提出して消費税を納付します。
納付税額の計算はどうやってするか
では、どうやって、納付税額を計算するのでしょうか。
消費税の納付額は、(売上分の消費税)-(仕入れ分の消費税)で計算し、「消費税確定申告書」を税務署に提出し納付します。
この計算と申告は、一定期間分をまとめて行います。これを「課税期間」といいます。普通は1年です。確定申告時以外にも、毎月、3ヶ月、半年(規模によって違う)と前年実績を基準として、消費税を納付します。
簡易課税制度
「仕入れ分の消費税」とは、仕入に際し支払った消費税に相当する金額です。この「仕入」には、家賃や光熱費などの人件費以外の経費も含みます。
この仕入の計算が、大変という理由で、売上の一定割合を仕入とみなす制度があります。前々年の売上が5千万以下の企業に認められています。これが「簡易課税」制度です。
みなし仕入率は、卸、小売、製造など売上の種類別に法定されており、90%から40%まで6段階あります。
いわゆる「益税」とは
簡易課税制度は、個々の事業者の選択です。簡易課税を選択すると、実際の仕入率(売上に対する仕入の比率)より、簡易課税のみなし仕入率のほうが高いと仕入控除が、実際の仕入れ額で計算したより多くなります。
結果として、実額で計算したよりも、納付税額が少なくなるということをさして、「益税」と呼び、簡易課税に批判的論調もあります。
「益税」問題は消費税という制度の根幹にかかわる問題なので、ここでは、ふれないこととします。
消費税を消費者が負担する仕組み
消費税は、酒税などの個別消費税と全く性格の違う税で、事業者が商品を売った、サービスを提供したという行為を税金の対象とし、事業者を納税義務者としています。
事業者は、これを前提として、販売価格に消費税相当額を上乗せして、販売すすることを「経済的」に強制されます(上乗せしなければ自分の負担となってしまいます)。
事業者は、申告時に仕入金額のうち消費税に相当する金額を控除(差し引き)することが認められます。
この仕組みによって、消費税は最終的に消費者が負担することなり、経済的には中立であると説明されています。
ここまでのポイント
事業者は(売上消費税)-(仕入消費税)を集計し税務署に申告している
小規模事業者には簡易課税という特例計算が認められている
消費税はモノやサービス自体でなく、「売った」という行為を税金の対象としている
事業者は、消費税相当額を上乗せすることによって、消費者に負担を転嫁する
税率変更や軽減税率と販売価格の関係
「生理用品に軽減税率を」という声があります。これらの方は、現在5500円(本体価格5000プラス税500円)で販売されている商品に軽減税率が適用されると5400円(本体価格5000プラス税400円)となり、100円安くなると考えているのだと思います。これは、誤解であり、ことはそう簡単ではないのです。(ネットで検索すると年間3600から8000円程度とのことなので5500円としました)
誤解があるのは、レシートに記載されている「税」は、消費税相当額であり、あくまで販売価格の一部だということです。販売価格は、販売店が決めます。消費者は「高い」と思えば、買わないか、安い店を探すだけです。
販売店が、税込み5500円のままで売れると判断すれば、価格表示は5500円(本体価格5093円税407円)と変わるだけです。確かに税金は93円安くなりましたが、消費者が支払う金額は変わりません。
これを「非道だ」と非難することはお門違いです。販売店は、売上と利益が増えるような価格設定をして当然なのです。逆に、他店との競争やその他の理由で、利益を削ってでも(場合によっては赤字でも)、税込み5000円に下げることもあります。
その他にも、生理用品が軽減税率適用になったとしても、製造原材料、包装紙資材、梱包運送費などはすべて10%ですから、仕入価格がどう変わるのか不透明です。
したがって、税率が10%から8%に変わったからといって、販売価格が2ポイント分安くなるという保証はないのです。
自由主義経済下では、一部の公共料金以外は、国が価格に介入することはありません。ここを忘れないで欲しいのです。もちろん、もっと介入すべきという見解があっても、それはそれでよいのですが、大いに議論した上で国民的な合意が必要です。
税制をコントロールするのは国民
民主国家では「国民が自ら自分の負担する税金を決める」のが建て前であり、この建て前を放棄することは国民主権原則の放棄につながります。
「消費税とは、どういう税金か、それはどうやって税務署に納められているのか」すべての人が詳細に知る必要ありません。また不可能でしょう。しかし、税制をコントロールする究極的な力は国民にあります。
給付行政を税制に持ち込むべきではない
再び生理用品の問題に戻ります。
「生理の貧困」問題が報道され、少しは私も理解したつもりです。この解決策として、軽減税率ということには、賛成しかねます。
必要なモノを安くということであるとすれば、公共料金のように、国が価格に介入する制度か、健康保険のように、自己負担を3割にするような制度を提案すべきではないでしょうか。
仮に軽減税率が適用されると、メーカーの消費税納付額は確実に減ります。当然税収も減ります。しかし、軽減税率が価格に与える効果は、不透明です。仮に価格を押し下げる効果があったとしても、わずかでしょう。
「減税」「軽減」は、ウケはいいのですが、本来給付行政に組み込むべき課題を安易に減税に求めることには賛成しかねます。
消費税のあり方について、大いに議論が盛り上がることは、必要であり、歓迎します。その前に、消費税の基本的な仕組みを知って欲しいし、少しでいいですから、事務負担や納税に苦労している、ちいさな会社や商店街の人たちに思いをはせていただきたいのです。