「申告所得税標本調査」は、昭和26年から始まり、毎年実施されており、国税庁サイトで公表されている。これは宝の山である。ここでいう「お金持ち」とは、高額所得者のことである。かつて「一億総中流」と言われた時代があった(60代以上の世代しか記憶にないかもしれない)。今は「格差社会」といわれる。この標本調査から、まずは「上流」のほうをみていきたい。標本調査をみると、意外とも思えることがある。
高額所得者の実情
かつて「長者番付」とも呼ばれた「高額納税者公示制度」は廃止された。高額所得者の顔がみえないので、何から所得を得ているのかわからない。「誰」は不明であるが(そのことに興味はない)、標本調査から、所得の源泉(所得の種類)は、ある程度わかる。
1億円以上の所得者:人数と所得区分
標本調査は、申告内容の主な所得から「事業者所得者」「不動産所得者」「給与所得者」「雑所得者」「この区分に該当しない所得者」と5分類している。
令和4年標本調査によると1億円以上の所得者は、25,085人であり、その内訳は表のとおりである。
※所得1億円以上:標本調査の所得階級では2億円以下から100億円超をいう
所得の種別 | 人数 |
---|---|
事業所得 | 2,360 |
不動産所得 | 632 |
給与所得 | 6,299 |
雑所得 | 507 |
上記区分に該当しない | 15,287 |
合計 | 25,085 |
グラフ1:1億円以上の所得者の所得別構成グラフ(割合)
説明
圧倒的多数派は「区分に該当せず」の60.9%である。次いで給与所得者の25.1%である。これは、主たる所得による分類なので、事業所得者、給与所得者等に分類された者も他の所得がないということは意味しない。高額所得者になると4区分に該当しない者の割合が6割を超えることは、驚きである。
所得区分別一人あたりの所得
グラフ2:1億円以上の所得者の所得区分別一人あたり所得
1億円以上の所得者の所得を人数で割って、所得区分別の一人あたりの所得金額を算出した。
雑所得者が、3億3千百万円であり、区分に該当しない所得者が、3億6千百万円となり、他を引き離している。
14年間の変化(数と所得構成)
申告所得税標本調査は、平成20年分から、現在の形式で公表されている。比較しやすいので、平成20年のデータと比べてみると、この14年間で大きな変化があったことがみてとれる。
人数の増加
グラフ3:高額所得者の増加(1億円以上の所得者)
14年間で高額所得者は、13,583人から25,085人の増加している。
不動産所得者は、やや減少しているが、なんといっても目立つのが「他の区分に該当しない所得者」と「給与所得者」の増加である。
所得種類別の構成変化
グラフ4:平成20年の1億円以上の所得者の所得種類別割合
令和4年と比較すると、数が増加しているだけでなく、その構成も変化している。
一人あたり所得の増加
所得金額合計を人数で割ると一人あたり所得金額が計算できる。
グラフ5:平成20年1億円以上所得者の一人あたり所得(所得区分別)
目立つのは「雑所得者」と「他の区分に該当しない所得者」の増加である。
ひとこと
「格差社会」、格差が拡大しているか否かは「上流」だけでなく「中流」「下流」もみる必要があるが、上流については、次のことはいえそうである。
数の増加
1億円以上の高額所得者は、2万5千人で、この14年間で、ほぼ倍増している。
構成の変化
高額所得者の構成が変化している。「雑所得者」「他の区分に該当しない所得者」が、人数、所得とも増加している。「雑所得者」は、0.9%から、2.0%に、「他の区分に該当しない所得者」は、51.5%から60.9%に増加している。
高額所得の雑所得者の増加は、金融先物取引のなどであり、「他の区分に該当しない所得者」の多くは金融所得であろう。いずれも分離課税である。経済の金融化が進行している。今や「お金持ち」とはマネーゲームの勝者となりつつある。