消費税が「重い」

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消費者の話ではありません。社長さんや個人事業主から、消費税が重いという話をよく聞きます。
「そうは言っても預かった税金をそのまま納めるんじゃないの?」

ところが、ことはそう簡単ではないのです。

 

これまで税理士として、消費税の申告納税を受任してきた中で「消費税が重い」という、ちいさな会社の社長さんの声をよく耳にしました。社長さんみんなが「消費税は重い」と感じているわけではなく、輸出が多くて還付を受ける会社もあります。

業種、業態による違い

仕入も売上も外税方式の卸売業のような場合は、さほど「重い」という感覚はないようです。対局にあるのが、飲食店で、ほとんどの方が「重い」といいます。製造業や建設関係はでは、自社の見積もり金額で受注できる会社は、さほど「重い」という感覚はないようですが、そうでない場合は、「重い」と感じているようです。

これまでの実務経験から、消費税についてどう感じているかは、各人各様で、大きな感覚のズレがあるが、一定の法則性があるようです。また、同一人なのに、商売人としての立場、消費者としての立場でも感じ方が違うようです。

ちょっと驚いたのは、同じ消費税なのに、自分の会社が事業者として納付するものと、買物のレシートの消費税は、感覚としては別物のように感じている人も多いということです。

重いと感じる理由

「重い」と感じるのは、一定期間分をまとめて払うという資金繰りのこともありますが、消費税分を価格転嫁できていない(つまり自分が負担している)と肌で感じているのが大きな要因ではないかと思います。

具体的に考えてみましょう。レストランの例ですが、チェーン店以外では、ランチ800円などの内税方式が多いようです。税率アップにともない、値上げしないとすれば、売上が変わらないとしても消費税の納税額が増えます。
ランチ税込み800円は、税率が8%ならば、本体価格740円、税60円で、税率が10%では、本体価格727円、税73円と計算します。消費税分が13円増えました。

「値上げすればいいじゃないか」と思われる方もおられるでしょうが、「値上げで売上が減ったら本も子もない」という、店主の重い判断があります。事業者間で「消費税分をまけてくれ」とか「税率アップ後もそのままで」と要求する行為は「転嫁拒否」として、禁止されていますが、消費者の買い控えには、手の打ちようがありません。店主自身の判断ながら、値上げしなかったのは、「自腹」で消費税(アップ分)を負担したという思いにつながります。こうなると、本来消費者が負担するよう設計された消費税ですが、店主には、一種の売上税と感じるでしょう。消費税が重いと感じるのも当然です。

転嫁を予定した消費税だが、予定通りにいかないこともある

税法が規定する納税義務者が、税の負担を他者に移転することを「税の転嫁」といい、税の最終的な負担者、税の落ち着き先を「税の帰着」といいます。
消費税は、納税義務者である事業者が、消費税分を上乗せして、販売することによって、税負担を消費者に転嫁し、消費者に税が帰着するように設計されています。税法自体が、税の転嫁を予定している税であるといえます。

消費税は、事業者の「資産の譲渡等」を課税の対象とし、その対価(販売価格)を「課税標準」としています。
経済学的に表現すると、消費税は、「商品の流通過程」を課税の対象とし、その対価「価格」を税額計算の基準とする税です。
消費税の帰着(結局誰が負担しているか)を考えるには、「価格」(請求額)の問題が深く関係しています。

消費税の帰着その一般的傾向

通常「価格」は、売り手から提示されます。売り手はどうやって価格を決定しているのでしょうか。
自身の販売価格を決定するにあたり、「ほとんど制約がない」とすれば、消費税は、予定通り転嫁されていると考えることができます。逆に「制約があり」、「価格」を引き下げざるをえないとすれば、税は転嫁されず、自己の負担となったといえます。制約とは、競争相手との関係、相手との力関係、相手の購買力など様々です。

注意していただきたいのは、請求書に「消費税」という項目があったからといって、転嫁されていることの証明にはならないし、発注元や納品先から価格を指定されているからといって、消費税の一部は転嫁できなかったと直ちに判断することも早計であるとうことです。

しかし、価格決定に制約が少ないのは「強者」であり、制約が多いのは「弱者」であることは、自明のことですから、一般的傾向として「弱者」にとっては、転嫁には困難がともない、一部であれ自己の負担となることは避けがたいことになります。

転嫁の実体はどうか

消費税転嫁の実体がどうなっているのか、気になるところですが、一例として少し古いのですが、日商のアンケート結果があります。

税率引き上げ後の転嫁の見通しについては
約7割の事業者が「転嫁できる」見込み。前回(2018年7月)調査時と比較すると、「転嫁できる」と見込む事業者の割合が4.3ポイント向上。
売上高別では、BtoB事業者はいずれも7割超が「転嫁できる」としているものの、 BtoC事業者では「1千万円以下の事業者」で約6割と、小規模な事業者は価格転嫁が難しい傾向。

結果は、私の感じていることを裏付けるものでしたが、なお疑問が残ります。質問が「あなたは消費税を転嫁できていますか」または「転嫁できる見込みですか」では転嫁の実態がみえにくいと思います。

消費税は、非常に難しい税です。何をもって「転嫁」できているか否か判断するのか、何を指標とすべきなのか、今後の研究を待ちたいところです。

量販店と消費者間(BtoC)の転嫁と帰着

消費税の転嫁と帰着については、白石浩介氏「消費税の転嫁と帰着」(税務経理協会)ならびに「食料品における消費税の帰着」という研究論文があります。

これは、税率アップ時の量販店と消費者間(BtoC)の消費税転嫁の実態を実証的に分析した貴重な論文です。

消費税の転嫁と帰着は、非常に興味深いテーマであり、実務家としての視点も意味があろうかと思います。いずれ別稿で、ふれたいと思います。