
税制と経済学―その言説に根拠はあるのか
「高い労働所得税は勤労意欲を削ぐ」といった税制にかかわる一見もっともらしい言説が、根拠を持つものであるのかを、経済学的な研究をレビューしながら検討する。
世の中には、税金をめぐって「もっともらしい」言説がたくさんある。
本書によれば「一見もっともらしい言説は、論者の個人的経験と思い込みだけに依るものではなかろう。それは特定の主義や価値観に基づくものかもしれないし、特定の実利や権益から生まれたものかもしれない。特にメディアを使って、自分たちに有利な言説を広めることは、お札売りだ」という。
「お札売り」とは、安政の大地震の後に巨大な鯰絵を売り歩く人たちで、無責任な流言・風雪を広げて稼ぐ人を意味する。
私も常々、専門家を自称する人たちの言説には、辟易としてきた。
この本の副題には、「税制をめぐる、もっともらしい言説を検証する」とある。私と同じ思いの人も多いのか、手にしたときには、すでに9刷であった。
検証の対象となった「言説」
- 配偶者控除は就業調整をひき起こすのか
- 労働所得税は勤労意欲を削ぐのか
- 税は格差の縮小に貢献できるのか
- 企業減税は経済成長を促進するのか
- 軽減税率は役に立っているのか
いずれも興味深い研究である。
終章「キチンと考える」ということ
税制に関ついて、なぜ根拠のない言説がまかりとおるのか。終章を読んで気づかされたことがある。「お札売り」が勝ってしまう理由は、もちろん力があるからだが、研究者が少ないという現状が関係しているようだ。その原因として、日本の政策課題に直接関係する質の高い研究を行うインセンティヴが小さいという問題もあるようだ。