「風が吹けば桶屋が儲かる」は通用せず

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会計検査院「企業9千社、経費分を超える税控除」と指摘

企業9千社、経費分超える税控除 214億円、検査院「公平でない」:朝日新聞デジタル
賃上げする企業を優遇する「賃上げ促進税制」の一環で、教育訓練費を上乗せした会社の法人税を控除する制度を会計検査院が調べたところ、税控除された企業の約8割にあたる延べ9812社が、訓練費増額分を超える…

賃上げ促進税制で教育訓練費増額分を基礎とする「上乗せ分」について、訓練費増額分を上回る税額控除が、なされていたと会計検査院が指摘した。

会計検査院の指摘

上記朝日新聞の記事によれば、税額控除313億円のうち、約8割の会社9812社で、教育訓練費増額を上回る214億円の税控除が行われていたという。

中には、教育訓練費の増が5万円で、法人税額の控除額が1058万という事例すらあったという。

該当条文は「租税特別措置法四二条の十二の五」

(給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除)

ぜひ一度該当条文をみていただきたい。これを読んで理解できる人は稀である。経産省等のwebでも解説しているし、専門家向けの解説書も各種ある。手間をかけて計算しても「適用なし」となることもあり、税理士泣かせである。

※この条文番号に「租税特別措置法」という法律の異常性があらわれている。「42条12項5号」ではない。42条の次が42条の2であり、次々と追加され、42条の12の次が42条の12の1である。このようにして「租税特別措置」が増えていっている。

「風が吹けば桶屋が儲かる」

内容をごく簡単にいうと「賃上げを実施した企業の税金をおまけ(法人税の税額控除)し、さらに「教育訓練費が前年比増えていれば、上乗せしておまけする」という制度である。

会計検査院の指摘は、教育訓練費増額分よりも控除税額が多い事例が多数あるということであり、賃上げ促進税制の「上乗せ分」の根拠に対する疑義である。「制度の効果と妥当性の検証を行い、見直しを検討すること」を求めている。

経産省によれば、教育訓練費増の波及効果で生産性が上がり給与があがるからという。「教育訓練費増→生産性向上」までは、納得できなくもないが、「生産性向上→給料アップ」となると、疑わしい。

「教育訓練費が増えれば給料が上がる」は、「風が吹けば桶屋が儲かる」という「こじつけ」と同類である。

会計検査院報告について

この報告は会計検査院法30条の2の規定に基づく報告であり、会計検査院法第30条の2の規定に基づく報告書で「租税特別措置(給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除制度)における教育訓練費に係る上乗せ税額控除の適用状況、検証状況等について」である。

会計検査院法では、「会計検査院は、検査の進行に伴い、会計経理に関し法令に違反し又は不当であると認める事項がある場合には、直ちに、本属長官又は関係者に対し当該会計経理について意見を表示し又は適宜の処置を要求し及びその後の経理について是正改善の処置をさせることができる。」とある。

この報告は、この規定による「随時報告」であり、「財務省、経済産業省、中小企業庁」にあてたものである。

詳細はこちらにある。

随時報告(令和7年) | 国会及び内閣に対する報告(随時報告) | 検査結果 | 会計検査院 Board of Audit of Japan

結論として「適用要件となっている事項と税額控除額の計算基礎となっている事項が異なる教育訓練費に係る上乗せ税額控除の仕組みは、政策目的である給与等の増加を促すために税負担の軽減を行う措置として、適切なものとなっていないおそれがあると認められた。」とし、さらに「経済産業省等が作成した事前評価書をみたところ、直接的効果は把握されておらず、また、税収減を是認するような効果について適切に説明されているとは認められなかった。」とまでいっている。

「教育訓練費が増えると給料が上がる」は、根拠がなく「風が吹けば桶屋が儲かる」の類であり、政策目的に合致しないと断言されたようなものである。早晩見直しは避けられない。

「賃上げ促進税制」をめぐっては、様々な疑問がある。順次書いていく予定である。