国税庁の「民間給与実態統計調査」は、統計法の指定統計である。対象は「民間事業所」(公務員を含まない)で、従業員(パート、アルバイトを含む)、役員の給与の調査である。標本調査であるが、信頼性が高い。会社規模による給料の違い(格差)は存在するのだろうか。
会社規模別の給与比較
調査結果「事業主規模別及び給与階級別の給与所得者数・給与額」によって、会社規模が大きいほど給料がいいのか、関係ないのかみてみたい。
事業所規模(人数)の区分
統計では、事業所規模は、①1~4人、②5~9人、③10人以上、④30人以上、⑤100人以上、⑥500人以上、⑦1000人以上、⑧5000人以上の8区分となっている。
事業所規模別従業員数
企業規模別の従業員数は、次の通りである(標本調査から、全体の数=母集団=を推計したもの)。
就業者数では、100人未満の企業が2100万人で41%となる。5000人以上の企業は740万人で14.8%である。
給与階級の区分
給与階級は、①100万円以下、②200万円以下、以後100万円きざみで、⑩1000万円以下、⑪1500万円以下、⑫2000万円以下、⑬2500万円以下、⑭2500万円超の14段階となっている。
比較の方法
勤続年数や給与体系も違うので、企業規模によって単純に給料が高いか安いかは判断できない。
そこで、できるだけ単純化して、企業規模別のグループ間で、給与階級別の構成比をみることとした。
データは「一年を通して勤務した、男女合計」を使った。
比較の対象
Ⅰ、小企業の比較(10人未満と30人以下)
Ⅱ、小企業と中小企業の比較
Ⅲ、中小企業と中堅企業の比較
Ⅳ、中堅企業と大企業の比較
グラフの見方
縦軸が、横軸の給与階級に属する人の割合である。
Ⅰの小企業の比較を例にとると、10人未満の企業では、200万円以下(100万円台)が一番多く、やや規模が大きい10人以上30人未満の企業では、400万以下(300万円台)が一番多いことがわかる。
Ⅲの中小企業と中堅企業の比較をみると、分布がほとんど変わらないことがわかる。傾向がつかめればよいと考えたので、数値は表示していない。
そのほかにも、この方法によって、結構興味深いことがわかってきた。
Ⅰ、小企業の比較(10人未満と10人以上30人以下)
従業員10人未満と、10人以上30人以下を比較してみる。会社規模としては、社長と家族従業員のみというクラスから、最大で付加価値1億円程度の会社である。
・従業員10人未満の企業 推定従業員総数6,187,360人
・従業員10人以上30人未満の企業 推定従業員総数6,804,900人
10人未満では、200万円以下から400万円以下の合計が55%であるが、10人以上では、300万円以下から500万円以下の合計が53%である。10人未満では200万以下が20.0%であるが、10人以上では13.5%である。10人未満と比べ、30人以下の企業のほうが、100万円ほど分布が上にくるようである。グラフでみると10人以上(グラフの赤い棒)のほうが右にシフトしている。家族従業員の賃金が低いためではないかと思われる。
Ⅱ、小企業と中小企業の比較
従業員10人未満と30人以上の規模の会社を比較してみる。30人以上は100人以下までの企業なので、中小企業の「小」といったとこであろうか。最大規模で、製造業、建設業で年商数億という規模である。
・小企業:従業員10人未満の企業 推定従業員総数 推定従業員総数6,187,360人
・中小企業:従業員30人以上100人以下 推定従業員総数8,215,277人
10人未満の会社(小企業)では、200万以下の給与の構成比が20%で一番多く、中小企業では400万以下が、21.5%で一番多い。
グラフで、どの階層が多いかをみていただくと、10人未満では、300万から400万の層が多く、30人以上では、400万から600万の層が多い。グラフをみると「中小企業」(赤い棒)のほうが、右にシフトしていることがみてとれる。
10人未満では、家族のみといった例も含まれるので、その点も考慮すべきだろうが、この比較では、30人以上の会社のほうが、給料がいいようだ。
Ⅲ、中小企業と中堅企業の比較
従業員30人以上と100人以上500人未満を比較してみる。
30人以上100人未満の企業といえば、家族従業員のみというレベルではない、中小企業であり、100人以上500人未満の会社は、中小企業基本法でも、「中小企業」には該当しない、中堅企業である。
・中小企業:30人以上100人未満 推定従業員総数8,215,277人
・中堅企業:100人以上500人未満 推定従業員総数10,586,125人(雇用数が一番多い)
グラフをみると、分布の構造は変わらない。大差はないようだが、中小企業では、400万以下の階層が最多であるが、中堅企業では500万円以下の階層が最多である。500万円以下の層から、中堅企業の構成比が中小企業の構成比を上回る。
ここで見る限り、中小より中堅企業の給与レベルのほうが高いようだ。
なお中小業基本法では、製造業で300人、卸売業・サービス業で100人、小売業で50人を中小企業としている。
Ⅳ、中堅企業と大企業
中堅企業(100人以上500人未満)と従業員5000人以上の大企業を比較してみる。
・中堅企業:従業員100人以上500人未満 推定従業員総数10,586,125人(この層の人数が一番多い)
・大企業:5000人以上:推定従業員総数7,498,447人
大企業は、100万以下から1500万以下まで、同じくらいの人数がいる。平均的なバラツキである。
驚くほど分布の構造が違う。大企業は、中堅企業と比べると、高額給与の階級で、大きな差がある。
特に1500万階級(1000万以上1500万未満)が、8.9%で中堅企業の1.8%と大きな開きがある。
大企業で、200万以下、300万以下の階級がそれなりの比率を占めるのは、パート労働者が多数いるためと思われる。
特徴的なのは、1000万以上の給与の人は、大企業に限られるようだ。
ひとこと
比較には、様々な方法があるが、年齢や勤続年数などの条件を無視して、給与水準を比較するため、給与階級別の構成比で比較してみた。興味深い結果になったと思う。
10人未満は、社長一人や家族従業員のみという会社も多いので、個体差が大きく、傾向をつかむのが難しい。
中小企業、中堅企業、大企業と、規模が大きくなるほど、一番多数を占める給与階級が、上がっていく(グラフでみると右にシフトしていく)。
特に1000万円以上の高額給与となると、大企業が圧倒する。全体の傾向としては、企業規模が大きいほど給与レベルは高いといえそうである。
しかし、大企業でも、400万以下が40%であり、1000万以下が、15%である。この点をみると大企業だから給与レベルが高いとはいえないようである。