「103万の壁」(その5)特定扶養

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親の特定扶養要件は、150万で決まり?

子の所得が48万(給与収入103万)を超えると、親は扶養控除の適用が受けられない。この上限を「特定扶養親族」に限り収入150万以下に緩和するようである。
あっさりと、ここだけは決まりそうな気配である。「103万の壁」は、ここが本丸であったのかと勘繰りたくなる。

特定扶養控除150万円に緩和、自公「前向きに検討」 - 日本経済新聞
自民、公明、国民民主の3党の税制調査会長は11日、2025年度の税制改正について国会内で協議した。大学生らを扶養する親の税負担を軽減する特定扶養控除をめぐり、自公は子の年収要件を現在の103万円以下から130万円以下に緩和する案を提示した。...

企業サイドからの「改正要望」か?

150万に引き上げることで、対象となる親の税負担は減少するが、これは企業サイドからの要望という側面が強いように思える。

なぜ、この要望が出てきたかといえば、103万を超えると、親が、特定扶養控除の適用が受けられないことから、学生アルバイトの「働き控え」が生じているからだという。とすれば、この改正が、企業サイドの要望から出てきたものと推測される。

学生の働き控えも「扶養から外れると損」という思いが浸透していることが、原因と思われる。学生は勤労学生控除で130万まで課税されないし、世帯収入で考えると、実際に「働き損」になるという対象は、さほど多くはない。

扶養親族と特定扶養親族とは

所得税法では、扶養親族とは、親族等で所得金額が48万円以下の者をいい、扶養親族一人につき、38万円が所得金額から控除される。

特定扶養親族とは、扶養親族のうち、19歳以上23歳未満の者をいい、特定扶養親族一人につき所得金額から63万円が控除される。

実務家としての経験から思うこと

税制に「扶養控除」という制度が存在する限り、扶養親族の範囲について、どこかで線引きせざるをえないが、現場は、机上で考えるほど単純ではない。

親は子の収入がわかるのか

学生を扶養している家族の実情は、それぞれであろうが、子がアルバイトしていることを知っていても、子の年収を把握している親がどれだけいるのだろろうか。子のほうも親に収入を知られたくない人もいるはずである。

また学生本人も、年収を把握しているのだろうか。アルバイト先が一か所とは限らない。

扶養是正通知

子の年収が扶養限度を超えるとどうなるか。これは、103万が150万になっても変わらない。

給与所得者(パート、アルバイトもすべて)は、年初(または就職時)に給与支払者(会社)に、「扶養控除等申告書」を提出する。19歳以上23歳未満の子を扶養していれば「特定扶養親族」として記載する。このまま年末調整が終了し、「特定扶養親族」に該当したはずの子が、アルバイトで103万以上の収入があったとすると、後日(忘れたころ)会社に、税務署から「扶養是正」についてのお知らせが届く。こうなると会社は、該当者の子の年収がいくらであったか、調べて、103万以上であることが判明すると、年末調整をやりなおし、追加で源泉税を納付し、本人から徴収することになる。

扶養限度150万引上げで想定される異論

税は公平であるべきである。この改正が実現すれば、次のような異論がでることは、容易に想像できる。

  • 同一生計で、所得が限度内であれば、配偶者であれ子、親であれ、本人の申告によって、所得控除が受けられる。この扶養限度の金額が、19歳以上23歳未満だけを特例として、年収150万円とすることは、公平でないとする意見。
  • 年収150万円の子を扶養している親と、無収入の子を扶養している親では、世帯収入で比較すると、150万円の差があるが、税負担は同じである。これは公平とはいえないとする意見。
  • 制度としては、課税最低限の金額と、扶養限度の金額は同一でなければならないということにはならない。特定扶養の限度を150万円に引き上げると、非課税限度の引上げが同時になされない限り、学生本人は所得税が課税されながら、親の扶養ということになる。税金がかかるほど収入があるのに「扶養」とは、納得のいく状態とはいいがたいとする意見。

パッチワークはやめてほしい

上記のような異論が出ることは容易に想像できる。このような場合、これまでも妥協的なパッチワーク的改正が繰り返されてきた。

これまでの改正から想定できるのは、初年度120万、次年度130万と、段階的に引き上げる方法であり、もう一つは、現行の配偶者特別控除のように、子の収入に応じて、段階的に「特定扶養控除」の金額を減らすことである。

現在でもパッチワークのような「改正」によって、年末調整は、相当複雑なものになっており、これ以上のパッチワークは、やめてほしい。