「立憲主義」という言葉は、一般になじみのあるものとは思えない。今、「立憲主義」から連想するとすれば「立憲民主党」という政党だろうか。一般にはなじみがなくても、どの憲法の教科書でも「立憲主義」「立憲主義憲法」は、最初のテーマであり、これなしに憲法学は始まらない。「立憲主義」は、英語の「constitutionalism」の訳語である。教科書の記述は次の通り。
伊藤正己「憲法」新版
立憲主義とは「国家権力が、憲法の制約を受け、国政が憲法の規定に従って行われる原則」「権力を制約する面を憲法の核心とする思想」
浦部法穂「憲法学教教室」第3版
立憲主義とは「憲法によって権力に縛りをかけること」
芦部信喜「憲法」第四版
近代立憲主義憲法とは「個人の権利、自由を確保するため、国家権力を制限することを目的」とし、立憲主義思想は法の支配「rule of low」の原理に関連する」
樋口陽一「憲法」第三版
立憲的・近代的な意味の憲法につい「権利保障と権力分立―それを通しての権力の制限を試みること」
長谷部恭男「憲法」第3版
立憲主義的意味の憲法について「近代立憲主義は国家の任務を個人の権利、自由の保障にあると考えるが、その任務を果たすために強大な権力を保持する国家自体からも権利と自由を守らなければなないという立場をとり、このような目的に即して国家機関の活動を厳しく制約しようとする」
以上で明確なように学者によって表現は多少違っても「憲法によって権力に縛りをかける」という考え方が立憲主義であり、そのような考え方に基礎をおく憲法を近代的・立憲的な憲法と呼ぶ。
日本国憲法九十九条
「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」
さらっと読み飛ばすと気がつかないかもしれないが、自民党改憲草案では、この条文は次のようになっている。
自民党草案第百二条
「全て国民は、この憲法を尊重しなければならない。
2 国会議員、国務大臣、裁判官その他公務員は、この憲法を擁護する義務を負う。」
日本国憲法は、国会議員、大臣、裁判官、公務員など=国家権力を担うものに、尊重、擁護義務を課しているが、「国民」とは書かれていない。自民党改憲草案は、まず、第一に「国民」に尊重義務を課している。その他にも「天皇、摂政が除外されていること、「尊重」と「擁護」が、どのように違うのかなど気になる点はあるが、後日としたい。日本国憲法の名宛て人(誰に義務を課しているか)は、明確である。
いずれにせよ「立憲的意味を持つ憲法」は、憲法によって権力に縛りをかける、権力を抑制する目的をもつものであり、「権力」にとって煙たい存在であり、できれば、変えてしまいたいものであることは、間違いない。