憲法29条(財産権)と租税

この記事は約3分で読めます。

租税と憲法といえば30条(納税義務)と84条(租税法律主義)であり、29条との関係を論じたものは、ほとんどみかけない。租税(租税法)と財産権を保障する憲法29条との関係は、どう理解したらよいのであろうか。これが私の率直な疑問である。租税は、明らかに私有財産権の侵害である。しかし国民の代表者たる国会が制定した法律(税法)に定める額を限度として、国民がその侵害を許容したものと考えることができる。

これに対する一応の回答は、「金子宏 租税法」にあって、金子先生は「課税は、国民の財産権への介入であるから、憲法29条1項の財産権の保障との関係で、極端に重い税負担は憲法に違反すると解すべきであろう。」(第17版)と述べておられる。つまり29条1項は立法を制約し、違憲審査の対象となるということである。

憲法29条
1.財産権は、これを侵してはならない。
2.財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
3.私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。

 

憲法学からのこの点のアプローチは、どうなっているのだろうか。代表的な憲法の教科書(宮沢俊義「法律学全集 憲法2」、芦部信喜「憲法」、浦部法穂「憲法学教室」、樋口陽一「憲法」、長谷部恭男「憲法」)をあたってみたが、憲法29条と租税の関係を直接のべたものは見当たらなかった。

憲法の教科書からわかることは、第1項は、所有権を「神聖かつ不可侵の権利」とした1789年のフランス人権宣言17条にルーツがあるようであり、第2項3項のルーツはワイマール憲法153条「所有権は義務を伴う。その行使は同時に公共の福祉に役立つべきでる。」にルーツがあるようである。この二つの規定は、自由主義国家と社会国家(福祉国家)という、歴史的段階の産物であり、一見矛盾するものである。憲法学の主な関心は、1項と2項との関係にあるようにみうけられた。

国家観―課税根拠論―租税政策は、相互に関連するものであり、第1項(所有権の不可侵)は、そのルーツからいえば、小さな政府論=(国家は経済に介入すべきでない)にたつ自由主義的国家観であり、ここからは、租税は国家の与える保護に対する対価であるという課税根拠論が導かれ、比例税率が平等にかなうもとされる。

第2項は、社会保障、所得再分配、景気対策なども政府の役割とする20世紀に登場した社会国家的な国家観が基礎にあり、課税根拠論も義務説に変わってくる。ここでは、負担能力に応じた租税(応能原則)が公平なものとされ、累進税率が選ばれることになる。

29条1項からは「財産権の保障との関係で、極端に重い税負担は憲法に違反すると解すべき」という結論が導かれるが、現在の日本の所得税制では、建て前としては、累進税率がとられているものの、金融所得については、分離課税となっており、総合課税による累進課税は有名無実となっている。2項との関係では、いかなる租税政策が導かれるべきであろうか。