昨年(2019年)10月から、消費税率引上げに伴う「低所得者対策」として、消費税の軽減税率制度が施行されている。軽減税率制度は、その目的として掲げた「低所得者対策」としての効果があったのであろうか。
軽減税率制度は、消費税の申告納税義務がある事業者や税理士にはすこぶる評判が悪い。あまりにも事務手続きが煩雑だからだ。「軽減税率大変だぁ」などを参照していただくと理解いただけるだろうか。
軽減税率の対象である食料品に着目してみよう。
食料品には、生産者が加工を加えていない生鮮食品と食品メーカーの作る工業製品がある。生鮮食品に関していうならば、種子、肥料、燃料、梱包材、運賃など、ほとんどが、軽減税率対象ではない。この生鮮食品の生産者(農家)の相当数が消費税の免税業者ではないだろうか。生産者の立場では、税率アップ分は出荷価格に上乗せせざるを得ない。これができないとすれば、生産者自らが、肥料、燃料などのコストアップ分をかぶらざるをえない。これを消費税の後転という。
スーパーなどの売手は、仕入れ価格、販売費用、他店の動向などをみながら、販売価格を決定しているはずである。複数税率制度のための設備投資、システム変更、事務費の増大などの販売費用の増加は、商品の価格に転嫁せざるを得ない。
一部の公共料金を除き、商品の価格は売手が決定する。消費者は高いと思えば買わないだけのことである。いうまでもなく消費者が支払うのは税込み金額である。
すべての誤解は消費税制度にある。多くの人は、今回の税率アップと軽減税率制度の施行によって、昨日まで1,080円(税込み)で売られていた商品が1,100円となり食料品だけは1,080円のままだと思い込む。しかし、実際はそうはなっていないはずである。
2ポイント程度の差しかない軽減税率制度によって、これが施行されなかった(すべて10%)場合と比べ、食料品を安く手にすることができるという保証はないはずである。
コロナ禍の中で、消費税率引き下げを主張する声もあり、一方では震災復興税制のように、いずれ消費税率引上げがくると考える向きもあるようである。2019年の消費税率引上げは、5年ぶりのことであり、軽減税率制度は初めての複数税率制度である。今後の消費税制度を考える上で、今回の税率アップと軽減税率が、私たちの仕事、日常生活やひいては国家の税収にいかなる影響があったのか十分に検証がなされなければならない。