令和6年1月1日から、電子保存が義務化され「紙で保存するのは違反だ!」というテレビCMが、流れている。電子保存制度改正は、納税者に対して、新たな義務を課すものであり、法令の規定に基づくものでなければならない。何が義務化されたのか、何をやらなければならいのか、法令の規定をきっちりと確認しておきたい。
何が変わったのか
電子取引に関するデータ保存義務は、以前からあった(令和3年改正前、電子帳簿保存法10条)が、取引情報をプリントして保存することも認められていた。
改正後は、当該電子デーテタを、財務省令で定める要件で、保存することが、義務づけられた。
後述のように、「電子取引」の範囲は、非常に広範であり、当該データは、ごく一般的に存在する。影響は甚大である。
税法の規定は、分かりにくい
義務を負う側の納税者にとって、法令はわかりやすいものでなければならないことは、当然である。ところが、これが一筋縄ではいかない。
税法全体にいえることだが、法律を読んでも内容がわからない。その原因の一つが、政令委任、省令委任にある。
電子保存の方法は財務省令で決められている
電子帳簿保存法(電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律)は、「財務省令で定めるところにより」という省令によって、保存要件が定められている。細かなことを法律で規定すると、その都度改正が必要になるので、内容をアップデートするには、便利だという理由があるとしても、これでは、行政庁に対する白紙委任に近い。
直接課税要件に該当しないとしても、この規定に反すると、不利益処分がなされる可能性があり、課税要件明確主義に抵触しないか疑問なしとしない。
令和3年度改正によって電子保存は義務化された
ことの発端は、令和3年度の税制改正にある。毎年国会に上程され、与党の賛成多数で成立することが恒例となっているのが「所得税法等改正案」である。この法律で、電子帳簿保存法の改正が決まった。その内容は実にあっさりしたもので、下記のとおりである。
令和3年度税制改正
電子帳簿保存法に関する改正は、下記のとおり。
「第六条から第九条までを削り、第九条の二を第六条とする。
第十条ただし書を削り、同条を第七条とする。」
ここで削除されたただし書きは、下記のとおりである。
「ただし、財務省令で定めるところにより、当該電磁的記録を出力することにより作成した書面又は電子計算機出力マイクロフィルムを保存する場合は、この限りでない。」
結局、電子保存に関する新7条は下記のとおりとなった。
(電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存)
第七条 所得税(源泉徴収に係る所得税を除く。)及び法人税に係る保存義務者は、電子取引を行った場合には、財務省令で定めるところにより、当該電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存しなければならない。
この改正によって、ただし書き部分にあった、電子取引に関するデータの書面出力保存は認められないこととなった。
電子取引とは何か
「電子取引」については、電子帳簿保存法2条に定義がある。
電子取引とは、「取引情報(取引に関して受領し、又は交付する注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類に通常記載される事項をいう。以下同じ。)の授受を電磁的方式により行う取引をいう。」
対象となる「電子取引情報」とは、納品書、請求書等に通常に記載される、日付、品名、金額等の情報が含まれるデータということになる。自己が作成したもの、相手方から受領したもの両方である。
請求書というタイトルがなくても、これらの情報が含まれるメール等は該当する。
このような取引情報は、飲食店やホテルなどではWEBを経由しての受注が一般化しており、ごく普通に存在する。
なお、請求書ソフト等で作成していても、プリントしたものは含まない。書面で受領した場合も同様である。
令和3年財務省令による保存方式
保存方法については、電子帳簿保存法第7条によって、財務省令で定める方法によらなければならないとされている。
当該財務省令は「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律施行規則」であり、その第4条に(電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存)として規定されている。(令和三年三月三一日財務省令第二五号)
保存方法は、国税庁のパンフレット(令和3年)の用語に従うと、真実性の要件と可視性の要件を満たす必要がある。
真実性要件とは、タイムスタンプ、訂正削除ができないシステム使用などであり、可視性要件とは、パソコン、ディスプレー、プリンターなどの備え付けと検索機能があることなどである。
令和3年財務省令附則では令和5年まで書面保存容認
令和3年財務省令は、経過措置として、令和5年12月31日までは「やむを得ない事情」、かつ「出力書面の提示、提出に応じることができる」ことを要件として、書面での保存を認めた。(令和三年三月三一日財務省令第二五号附則)
令和5年財務省令改正による猶予(令和6年1月1日施行)
電子データの保存ができなかったことについて、相当の理由があることを証明するか又は税務署長が相当な理由があると認めるときで、電子データの出力書面を提出の要求に応ずることができるようにしているときは、電子取引データを出力した形式での保存を認めた。(令和五年財務省令第二十二号)
結局どうなったか
原則
法律は、改正されておらず、令和3年財務省令附則の経過措置が、令和5年12月31日で終了するので、「令和三年財務省令第二十五号四条」で定める方式で保存することが義務化された。
この保存方式は、真実性要件と可視性要件など同条で詳細に規定されている。
猶予
令和五年財務省令第二十二号により、一定要件のもと、原則方式での電子保存は猶予される。(令和五年財務省令第二十二号第四条三項:令和6年1日施行)
(注)電子取引データ自体の保存が猶予されるわけではない。要件に合致した方式での保存義務が猶予されるだけである。
猶予の要件
本人が、電子保存できなかったやむを得ない事情があったことを証明する
又は、電子保存できなかった相当の理由があると税務署長が認めるとき
電子帳簿保存法取扱通達7-12では、「システム等社内の整備が間に合わない場合等」がこれに該当するとしている。
いつまで猶予されるか
法文の規定から、条件と解することができるので「税務署長が相当な理由があると認めなくなったときまで」猶予される。
「可視性」「真実性」の具体例
電子取引データは、財務省令四条で定める、真実性の確保、可視性などの要件を満たした方法で保存しなければならない。これがまた、一筋縄ではいかない。
納税者が、これに従って保存すべき義務を負うにもかかわらず、これを理解するのは、容易ではない。むしろ、わからないといったほうが正解であろう。
財務省令の該当分は、参考のため文末に掲げておく。
以下、国税庁パンフレットに従って、具体例を記載しておくこととする。
可視性要件
①モニター、操作説明書等の備付け
②検索要件の充足
両方を満たす必要があるが、電子取引データをプリントアウトして日付及び取引先ごとに整理されている方」は、電子取引データの「ダウンロードの求め」に応じることができるようにしていれば、②の要件は不要となる。
真実性要件
不当な訂正削除の防止に関する事務処理規程を制定し、遵守する。
<参考> 電子保存の方法を定めた財務省令
電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律施行規則
(電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存)
第四条 法第七条に規定する保存義務者は、電子取引を行った場合には、当該電子取引の取引情報(法第二条第五号に規定する取引情報をいう。以下この項及び第三項において同じ。)に係る電磁的記録を、当該取引情報の受領が書面により行われたとした場合又は当該取引情報の送付が書面により行われその写しが作成されたとした場合に、国税に関する法律の規定により、当該書面を保存すべきこととなる場所に、当該書面を保存すべきこととなる期間、次に掲げる措置のいずれかを行い、第二条第二項第二号及び第六項第五号並びに同項第六号において準用する同条第二項第一号(同号イに係る部分に限る。)に掲げる要件(当該保存義務者が国税に関する法律の規定による当該電磁的記録の提示又は提出の要求(以下この項において「電磁的記録の提示等の要求」という。)に応じることができるようにしている場合には、同条第六項第五号(ロ及びハに係る部分に限る。)に掲げる要件(当該保存義務者が、その判定期間に係る基準期間における売上高が五千万円以下である事業者である場合又は国税に関する法律の規定による当該電磁的記録を出力することにより作成した書面で整然とした形式及び明瞭な状態で出力され、取引年月日その他の日付及び取引先ごとに整理されたものの提示若しくは提出の要求に応じることができるようにしている場合であって、当該電磁的記録の提示等の要求に応じることができるようにしているときは、同号に掲げる要件)を除く。)に従って保存しなければならない。
一 当該電磁的記録の記録事項にタイムスタンプが付された後、当該取引情報の授受を行うこと。
二 次に掲げる方法のいずれかにより、当該電磁的記録の記録事項にタイムスタンプを付すこと。
イ 当該電磁的記録の記録事項にタイムスタンプを付すことを当該取引情報の授受後、速やかに行うこと。
ロ 当該電磁的記録の記録事項にタイムスタンプを付すことをその業務の処理に係る通常の期間を経過した後、速やかに行うこと(当該取引情報の授受から当該記録事項にタイムスタンプを付すまでの各事務の処理に関する規程を定めている場合に限る。)。
三 次に掲げる要件のいずれかを満たす電子計算機処理システムを使用して当該取引情報の授受及び当該電磁的記録の保存を行うこと。
イ 当該電磁的記録の記録事項について訂正又は削除を行った場合には、これらの事実及び内容を確認することができること。
ロ 当該電磁的記録の記録事項について訂正又は削除を行うことができないこと。
四 当該電磁的記録の記録事項について正当な理由がない訂正及び削除の防止に関する事務処理の規程を定め、当該規程に沿った運用を行い、当該電磁的記録の保存に併せて当該規程の備付けを行うこと。