「紙で保存するのは違反だ!」というテレビCMをみて、この業界の人たちは、何を考えているのだろう思う。インボイス制度と電子帳簿保存法を二大法改正と呼び、あたかも、業界にとって、神風と思っているようだ。いまだに電子帳簿保存法をメシの種にしている。しかも、日本のデジタル化を牽引すべき企業までが。これで大丈夫なのかと心配になる。
そもそも電子帳簿保存法は役割を終えた法律であり、廃止すべきものだ。
制定が1998年(平成10年)の電子帳簿保存法
電子帳簿保存法は、1998年(平成10年)に制定されている。1998年は、長野オリンピックの年である。50歳代以上の人でなければ当時の状況は、わからないので、あらためて記しておく。当時、中小企業に、会計ソフトも普及しておらず、ようやく納品書、請求書発行にパソコン使用が始まった頃である。
ましてや、電子署名、タイムスタンプなどの否認防止や改ざん防止措置をほどこす技術などは、研究者のものであり、実用化はおろか、一般に知られていなかった。
電子帳簿保存法は、そういう時代に制定された法律である。
e-japan戦略、e文書法
当時のインターネット普及率は、13%であり、それも電話回線を使ったダイヤルアップ(これも死語)であり、速度は信じられない遅さである。現在の感覚で、インターネットと呼べるようなものではなかった。一般用としては一部の好事家(私もその一人)のものでしかなかった。
日本は遅れていたのである。この状況を打開すべく、官民一体でとりくまれたのが、電子政府構想であり、e-japan戦略である。
日本の遅れを取り戻すべく始まったe-japan戦略は、行政手続の電子化、民間の書類交付義務の電子化と続いた。e文書法は、その最後であり、鳴り物入りで成立した法律である。
e文書法の制定によって、各種行政手続で課された書類保存義務、書類作成義務は、すべて電子化が許容され、電子署名をもって、署名や押印に代えることも認められた。
電子帳簿保存法で「e文書法」は適用除外とされた
電子帳簿保存法は、e文書法の制定によって役目を終えたはずの法律である。私は、e文書法によって、電子帳簿保存法は、廃止されるものと思った。ところが、当の電子帳簿保存法において、e文書法は、適用除外とされ、電子帳簿保存法は、生き残ったのである。
電子帳簿保存法の適用除外規定
第六条 国税関係帳簿書類については、民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律(平成十六年法律第百四十九号)第三条(電磁的記録による保存)及び第四条(電磁的記録による作成)の規定は、適用しない。
ほとんどの書類が国税関係書類
法人税法、所得税法等は、帳簿のみならず、その証拠となる書類に保存義務を課している。このこと自体は当然のことである。
これら保存義務が課された帳簿・書類を当時「国税関係書類」という。この書類の範囲は、企業や事業者が、作成し、発行し、相手方から受領する書類全般に及ぶ。これもまた当然のことである。
「e文書法」の空文化
したがって、e文書法によって、電子化が許容されたとしても、当該文書が「国税関係書類」に該当する限り、電子帳簿保存法4条の規定が適用されことになり、かくしてe文書法は、空文と化した。
今、「紙で保存するのは違反だ!」というテレビCM、ポイントで国民を誘導しようとする政府をみると、いずれもe-japanのDNAは受け継がれていないようだ。
あらためて、e文章法の条文を確認しておくと下記のとおりである。
民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律(e文書法)
(電磁的記録による保存)
第三条 民間事業者等は、保存のうち当該保存に関する他の法令の規定により書面により行わなければならないとされているもの(主務省令で定めるものに限る。)については、当該法令の規定にかかわらず、主務省令で定めるところにより、書面の保存に代えて当該書面に係る電磁的記録の保存を行うことができる。
2 前項の規定により行われた保存については、当該保存を書面により行わなければならないとした保存に関する法令の規定に規定する書面により行われたものとみなして、当該保存に関する法令の規定を適用する。
(電磁的記録による作成)
第四条 民間事業者等は、作成のうち当該作成に関する他の法令の規定により書面により行わなければならないとされているもの(当該作成に係る書面又はその原本、謄本、抄本若しくは写しが法令の規定により保存をしなければならないとされているものであって、主務省令で定めるものに限る。)については、当該他の法令の規定にかかわらず、主務省令で定めるところにより、書面の作成に代えて当該書面に係る電磁的記録の作成を行うことができる。
2 前項の規定により行われた作成については、当該作成を書面により行わなければならないとした作成に関する法令の規定に規定する書面により行われたものとみなして、当該作成に関する法令の規定を適用する。
3 第一項の場合において、民間事業者等は、当該作成に関する他の法令の規定により署名等をしなければならないとされているものについては、当該法令の規定にかかわらず、氏名又は名称を明らかにする措置であって主務省令で定めるものをもって当該署名等に代えることができる。