軽減税率制度が始まった。主に飲食店など、軽減税率対象商品を購入する事業者から、その記帳の煩雑さに悲鳴が上がっている。その原因は複数税率が初めての経験であるだけでなく、食品スーパーなどのレシートに、税率別税込み金額の記載がないことにある。
消費税の仕入税額控除の計算には、税率ごとの「課税仕入」の記帳が欠かせない。この記帳なくして自分が納付する消費税の申告書が作成できない。この記帳のためには、税率ごとの税込み金額が必要となる。ところが、私が見るかぎり、外税方式を採用する店舗のレシートには、税率ごとの税込み金額の記載がない。したがって、記帳(会計ソフトへの入力)に際しては、自分で税抜き価格と税額を合計する必要がある。日々の買物が多い飲食店などの負担は大変なものだ。
何のためのレジ助成か
軽減税率(複数税率)対策としてレジ補助金が実施されている。
しかし、実際に消費税を申告納付する側からいえば、売り手だけでなく買い手のことも考慮して助成対象レジの要件を検討すべきではなかったのかと疑問に思う。
売り手側からみれば、10%対象の売上と軽減税率売上の区分ができなければ、消費税の申告計算ができない。他方、買い手側からみれば、課税仕入れの金額が10%対象なのか、軽減税率対象なのか区分できなければ仕入控除の計算ができない。
現に中小機構軽減税率レジ補助金のテレビCMでも「お客様が仕入税額控除を行う場合税率ごとに合の計金額が記載されたレシートの保存が必要です」と放送していた。改めてCMを見直すと、レシートは、8%対象商品の税込み合計、10%対象商品の税込み合計がちゃんと記載されている。しかし、軽減税率が実施されてみると、税率区分ごとの税込み金額きさいされたレシートは全く見かけない。原因はどうも外税方式にあるようだ。外税方式のスーパー等のレシートはどこでもほとんど下記のようになっている。
8%対象商品税抜き価格 | 2000 |
10%対象商品税抜き価格 | 1000 |
8%対象消費税 | 160 |
10%対象消費税 | 100 |
合計金額 | 3260 |
これでは、1回電卓で、税率区分ごとの合計を計算しないと会計ソフトに入力できない。複数税率で事務負担が大変なのにおいうちだ。
解説
日本の消費税法では、税の累積を避けるため「仕入税額控除」という方式で前段階での消費税相当額を控除する方式を採用している。どの事業者もレシートに記載された消費税をそのまま税務署に納付しているわけではない。消費税を申告納付するためには、売上に含まれる消費税相当額と仕入・経費に含まれる消費税相当額両方の集計が必要となる。
これが、事業者が納付する消費税計算原則的な方法だが、小規模事業者には売上だけから仕入税額を計算する方法も認められる。これが簡易課税方式である。
税込み金額の記載がないレシートを受け取って煩雑な処理を強いられるのは、簡易課税を選択していないか、前々年の売上が5,000万をこえて、簡易課税が適用されない事業者ということになる。売上5,000万というのは業種にもよるが、家族従業員以外には従業員一人とか二人といった規模の事業者であり、事務作業に専任する事務員などいるはずもない。これらの小さな事業者(会社)が事務負担に悲鳴を上げている。(2019年10月23日)