申告所得税標本調査では、「事業所得者」「不動産者所得者」「給与者所得者」「雑所得者」「この区分に該当しない所得者」と、主たる所得により申告者を5分類している。令和4年調査の高額所得者(所得5千万円超)の78,263人では、「この区分に該当しない所得者」が、46%、1億円超の25,085人となると60%以上となる。高額所得者については、区分の意味があるのだろうかと思わざるを得ない。何から所得を得ているのだろうか。
所得5千万円超の高額所得者
格差の指標として使われる「ジニ係数」は、完全平等を「0」、完全不平等(一人が独占している状態)を「1」とする。ピケティによれば、ジニ係数のような総合指標より、百分位、千分位などの所得シェア率のほうが、格差指標として優れているという。所得シェアを計算することはできないが、所得5千万超は、78,263人であり、およそ千分位(0.1%)に相当する。この「日本のお金持ち」の実態はどうなっているのだろうか。
表1 申告所得者の人数と所得金額
申告所得の内訳は下記のようになっている。
申告所得種類 | 人数 | 所得金額(百万円) |
---|---|---|
営 業 等 所 得 | 14,525 | 909,939 |
農 業 所 得 | 2,626 | 936 |
利 子 所 得 | 2,084 | 4,744 |
配 当 所 得 等 | 25,425 | 559,886 |
不 動 産 所 得 | 39,189 | 422,943 |
給 与 所 得 | 57,331 | 2,660,191 |
総 合 譲 渡 所 得 | 1,904 | 21,176 |
一 時 所 得 | 7,476 | 36,605 |
雑 所 得 | 37,774 | 286,815 |
山 林 所 得 | 66 | 678 |
退 職 所 得 | 1,915 | 90,438 |
分離短期譲渡所得 | 1,099 | 33,706 |
分離長期譲渡所得 | 26,626 | 2,751,793 |
株式等の譲渡所得等 | 15,708 | 3,269,020 |
合計 | 78,263 | 11,024,967 |
所得5千万円超の人(78,263人)が得ている所得は、11兆249億円であり、単純に人数で割ると一人あたり1億4千万円となる。
所得の源泉別分類
所得税法の所得分類とは異なるが、所得は、労働に起因するもの(給与)、資産に起因するもの(不動産、利子配当)、複合的なもの(事業)、臨時的なもの(譲渡)など、所得の源泉となったものによって区分することもできる。下記7区分にわけてみた。
表2 所得の源泉別分類
所得の源泉 | 金額(百万円) |
---|---|
株式等の譲渡 | 3,269,020 |
臨時 | 2,843,280 |
給与 | 2,750,629 |
事業 | 911,553 |
利子配当 | 564,630 |
不動産 | 422,943 |
雑 | 286,815 |
総計 | 11,048,870 |
「臨時」は、総合譲渡所得、分離譲渡所得、一時所得の合計、給与は退職を含む
グラフ1 高額所得者(5千万円超)の所得源泉
5千万円を超える所得者をみると、所得の29.6%が、株式等の譲渡所得である。次に「臨時」と区分したものが25.7%である。うち70%が長期譲渡所得であり、経常的なものではない。給与所得が24.9%であることも注目されてよい。
一方、かつての資産所得の代表とも思える不動産所得は、2.6%にすぎない。
超高額所得者(所得1億円超)
ついで、1億円を超えるトップクラス超高額所得者、25,085人についても同じようにみていく。
1億円を超える所得者は、高額所得者(5千万円超)のうち、上位30%にあたる。
表3 超高額所得者申告種類別人数
申告所得区分 | 人数 |
---|---|
事業所得者 | 2,360 |
不動産所得者 | 632 |
給与所得者 | 6,299 |
雑所得者 | 507 |
他の区分に該当しない所得者 | 15,287 |
合計 | 25,085 |
表4 所得の源泉別分類
同様に所得の源泉別に7分類すると下記のようになる。
所得の源泉 | 所得金額(百万円) |
---|---|
株式等の譲渡 | 3,033,989 |
臨時 | 1,817,651 |
給与 | 1,367,686 |
利子配当 | 442,280 |
事業 | 418,464 |
雑 | 204,488 |
不動産 | 166,359 |
総計 | 7,450,917 |
グラフ2 超高額所得者(1億円超)の所得源泉
1億円を超える所得層になると、40.7%が株式等の譲渡所得である。
高額所得者(5千万円超1億円以下)と超高額所得者(1億円超)の比較
ここまでみてきたように、所得5千万を超え1億円以下の層と、所得1億円以上の層では、所得の源泉が違うようだ。
所得5千万円を超え1億円以下の階層(高額所得者)と、1億円を超える階層(超高額所得者)を比較してみた。
グラフ3 高額所得者と超高額所得者の比較
一見して明らかなように、高額所得者と超高額所得者の所得の内訳が全く異なる。超高額所得者の所得のうち40.72%が、株式等の譲渡所得である。そのほか、超高額所得者では利子配当が5.94%と増えていく。
ひとこと
冒頭に書いたように、ピケティによれば「格差」の実態をみるには、ジニ係数よりも上位百分位(1%)、千分位(0.1%)の所得シェアをみたほうがよいという。申告所得税標本調査では、所得5千万円超から1億円以下の階層が78,263人で、ほぼ千分位(0.1%)となる。この上位階層が得ている所得総額は11,024,967百万円であり、単純に割り算すると一人当たり、6753万円となる。さらに上位の1億円超の階層は25,085人で所得総額は7,433,775百万円、一人当たり2億9634万円となる。
民間給与実態統計では、民間賃金の中央値は400万円台なので、上位0.1%の人の所得は、普通の人の給与16人分に相当し、さらに上位の階層の人(1億円超)の所得は74人分に相当する。
資産所得(資産所有に起因する所得)の代表といえば、キャピタルゲインを別とすると、利子配当と不動産所得である。ところが、日本の高額所得者では、この比重は大きくない。高額所得者の源泉は、圧倒的に「株式等の譲渡所得」である。マネーゲームの勝者が、一人勝ち状態である。格差社会云々よりも、こちらのほうが気になる。とても正常な状態とは思えない。