身近なようで、意外と知られていないのが、消費税。議論の前に、まず正確に知って欲しいというのが、私の願いです。
2019年(令和元年)から実施されている軽減税率制度ですが、実施以前から税理士には、すこぶる評判の悪い制度です。「軽減」は、多くの人にはプラスイメージ(歓迎)でしょうが、ほとんどの税理士が反対する理由は、「記帳の大変さ」です。また、手間がかかるわりにその減税効果が疑わしいと思っているのも、その理由です。
消費税法の軽減税率の規定
「消費税の税率は10%で食料品は8%でしょ」これは常識で、いまさら説明不要とも思われますが、そうでもないので、まず条文の紹介から。
ちょっと驚きですが、実施されて3年ですが、現在(令和4年)の消費税法の本文には、軽減税率の規定はないのです.。
令和5年10月1日施行の条文をみると、第29条「消費税の税率は、次の各号に掲げる区分に応じ当該各号に定める率とする。」とあり、第一号、課税資産の譲渡等、7.8(地方消費税と合わせ10%)、第二号、軽減対象課税の譲渡等、百分の6.24(地方消費税と合わせて8%)とあります。
「軽減対象課税資産の譲渡等」も、令和5年10月1日施行の条文で「課税資産の譲渡等のうち、別表第一に掲げるもの」と定義されています。この別表第一のなかに「食料品」が指定されています。
軽減税率は、2019年(令和元年)から、施行されているのに、消費税法では、令和5年施行となっています。延期が繰り返された消費税率アップ実施時期に合わせ、軽減税率を前倒ししたからです。
興味のある方は、調べてみてください。すでに消費税法改正で決まっていた施行時期を平成28年法律第15号で成立した「所得税法等の一部を改正する法律」で前倒ししたのです。同法で制定された、平成28年消費税法附則第34条をご覧ください。
このようなややこしい立法がまかり通ることが、税法を難しくしている要因です。
軽減税率、二つの「誤解」
税率が違えば価格が違って当然
コーヒー300円(店内330円、テクアウト324円)という価格表示をみかけます。「飲食は、10%だし、テイクアウトは食品で8%だから、当然だね」と考える方も多いと思われます。しかし、売手サイドで考えると、テイクアウトは容器代もかかるし、むしろ高くしたいよ、というのが本音かもしれません。
また、商店街のそばやさん、洋食屋さんに出前を頼むと、店内でも出前でも価格は同じということも多いと思います。
なぜこのようなことがおきるのでしょうか。チェーン店のコーヒーショップは、お客さんが「税率が違うのだから価格が違って当然」と思い、トラブルを避けるため、このような価格設定をしているからです。
ふつう商品の販売価格の決定権は、売手にあって、客は高いと思えば買わないだけです。消費税については、コーヒーショップの価格設定も商店街の飲食店の対応どちらでもよいのです。
ポイントは、消費者の払う消費税相当額は、あくまで消費税ではなく商品価格の一部だということです。コーヒーショップの例でいえば、客が「おれは消費税キライ、で払いたくない」といえば、店側の対応は「では売りません」ということになります。売り手が、特別に「しょうがないな」っと300円に値引きしても、27円の消費税が発生します。店側は「消費税をもらわない」客側は「払わない」ということができないのが消費税の仕組みです。
軽減税率で食料品は安くなる
コメ5キロが2160円(本体2000円プラス税160円)で売られているとします(ちょっといいコメですね)。これをみて「軽減税率がなければ2200円だったのに、40円助かった」と思う人がいるかどうかわかりませんが、軽減税率=税金が安い=モノが安くなる、と思っている人は多いと思います。
「税が安い」=「税収が減る」は事実で、軽減税率の実施で、税収は減るでしょう。しかし、モノが安くなるかというと、疑問符がつきます。
複数税率で販売コストが増える
複数税率で、レジやプライスカードなどの販売費用がアップします。また記帳や申告納付などの納税関係費用もアップします。これらの費用分は、価格に転嫁(上乗せ)しない限り売り手の負担となってしまいますから、すぐにではないかもしれませんが、いずれ価格に反映させざるをえないと思います。
税率アップで生産者側のコストが増える
生産者サイドから考えると、食料品は軽減税率対象であっても、生産に必要な種苗などの原材料、消耗資材、燃料費、運賃などすべてが、軽減税率対象ではなく、税率アップによって、生産コストは、当然高くなります。このアップ分も、最終販売価格に影響してきます。
以上の二つから、10%8%という2ポイント程度の「軽減」では、軽減効果に疑問符がつきます。
まとめ
軽減税率をめぐっては「店内飲食とテイクアウト、フードコート」など、テレビ的な話題にことかきませんでした。まず、正しく消費税法を知っていただきたいと思います。
農産物については、生産者も税率アップ分は「仕入税額控除」で取り戻せるという意見もあるかもしれません。しかし、多くの米作農家は、免税事業者ではないかと思います。
軽減税率の趣旨などついては別稿で、いずれふれたいと思います。
記帳の負担については「軽減税率たいへんだぁ」をご覧ください。