食料品免税を政策に掲げる政党がある。「物価高で苦しいのに、せめて食料品くらいは免税に」という庶民の声を代弁しているようだが、食料品免税で、安くなる保証はどこにもない。姑息な政策である。
食料品が免税になれば、レシートから「税」は消える。しかし、1,080円のものが、1,000円になるかというと、ことはそう簡単ではない。
消費税は売上にかかる税
消費税は、酒税やたばこ税のように「物」にかかる税金ではなく「売上」にかかる税である。納税義務者は、消費者ではなく事業者である。
税の帰着ということ
消費税分を価格に転嫁(上乗せ)できれば、消費税の負担者は消費者ということになる。日常の買い物は、ほとんどが、このように消費者が負担している。法律上の納税義務者と、税の実際の負担者が、違うということは、税の世界ではよくあることである。
しかし、レシートに「税」があったからといって、転嫁できているとは限らないとい。赤字で売っても、レシートには「税」がある。この場合は、税が転嫁できておらず、事業者の負担(自腹)となっている。零細事業者、フリーランスの人などは、転嫁できていないという人の方が多いのが現状であろう。
減税分は誰のふところに
食料品免税が実施されると、間違いなく国の歳入は減る。この減収分は誰のふところに入るのだろうか。
基本的に、消費税は弱者が負担する仕組みである。免税による減税分が、そのまま消費者の利益になるとは限らない。わからないのが、消費税の難しいところである。
食料品免税は、消費者、生産者、流通事業者、食品メーカー、飲食店と、影響は様々であるが、一番得するのが食品メーカーであり、壊滅的な影響を受けるのが、零細飲食店である。
食品メーカーには消費税還付
食品メーカーは、売上が免税であり、食材仕入も免税である。しかし、人件費以外の設備、電気料等の経費は「課税仕入れ」であり、その分の消費税は還付となる。なお「免税」でな「非課税」であれば、「非課税売上対応仕入れ」となり、還付はない。「免税」と「非課税」は、全く違うのである。消費税とは、かようにややこしい制度である。
一番の被害者は零細飲食店
食料品は免税でも飲食店の売上は課税(10%)である。
消費税は、売上の消費税から仕入の消費税を差し引きして計算する仕組みなので、食品仕入れ分の消費税はないことになる。結果として消費税の納税額は、大幅に増加する。
零細飲食店の多くは、簡易課税という売上金額から、税務署に納める消費税を計算しており、売上1千万につき、40万円の消費税である。食料品免税となれば、適用される「みなし仕入れ率」は、変更されることは明らかで、更に税負担が増加する。
消費者
消費税の納税義務者は消費者ではなく、事業者であり、物ではなく、売上にかかる税である。スーパーなど売り手が、消費税分を販売価格に上乗せできれば、消費者が負担することになる。上乗せできなければ、売り手の自腹となる。これを税の帰着というが、税の帰着が、わからないのが、消費税である。
今日から、レシートの「税」が消えて、1,000円+税80円が、1,000円+税0円となっても、1ヶ月後には、1,080円+税0円となることもある。税の帰着はが、どうなるかは、様々な要因が関係するため、「わからない」としかいいようがない。
その他
流通業者は、レジやシステム改修などの費用を負担することになる。これが商品価格に転嫁されると、消費者が負担することになる。
米作農家など小生産者は、ほとんどが免税業者である。生産に必要な、種子、肥料、燃料などあらゆるものが10%である。課税業者を選択すれば消費税の還付を受けることができる。実際に小規模農家が、このような選択をするかは不明である。
消費税とは、このように、ややこしい仕組みである。税収が減ることは、間違いないが、免税の効果は疑わしい。
